イケメン年下君がメロメロなのは、私って本当ですか?

7

その日の帰り道。
会社を出て、夜風にあたりながら二人で歩く。

「今週、デートしましょ」
横を歩く蒼が、不意にそう切り出した。

「うん……」
また頷いてしまう。自分でもおかしいくらい、抵抗できずに返事をしている。

「アボカド料理のお店、予約しときます」
「うん……」
もう、会話が成立しているのか怪しいくらい、私は「うん」しか言えなくて。

「今日、家まで送ります」
「う、いや、いいよ。鳴海くんの家の方が近いし」
ようやく否定の言葉を口にしたのに――

「……送ります!!」
まっすぐな声に押し切られてしまう。
その強引さすら、なんだか甘酸っぱくて、胸の奥でとろけそうになった。

「あと、俺たちって……」
蒼が言いかけた、その瞬間。

「……真緒……?」
聞き慣れた、落ち着いた声が闇に響いた。

え……?と顔をあげると、目の前にスーツ姿の男性が立っていた。
「お兄ちゃん!」
思わず声が漏れる。

仕事帰りらしく、少し疲れのにじむ顔。けれど、その眼差しは私と隣にいる蒼を交互に見て、状況を瞬時に察したようだった。
「……真緒、お前……」

横で蒼が緊張したように姿勢を正す。
さっきまで「デート」とか「送ります」とか、無邪気に笑っていたのに、一瞬で表情が引き締まった。

兄の目線と、蒼の硬直した横顔。
私は突然、冷や汗が流れるのを感じて――。

夜の街灯の下、空気がぴんと張り詰める。
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