イケメン年下君がメロメロなのは、私って本当ですか?
「会社の人か?」
兄の声は低く、抑揚が少ない。けれど、それが逆に圧を放っているように感じられる。

兄の目はいつも鋭くて、怒っているのか、普通なのか判別がつかない。
私はただ固まっているしかなかった。

そんな中――
「真緒さんのお兄さんですか? はじめまして。僕、鳴海といいます」
蒼が一歩前に出た。まるで逃げ場をなくした子犬が、それでも勇気を振り絞って吠えるみたいに。

「……真緒さんと、お付き合いしています」

「?!?!」
私の頭の中で警報が鳴った。
おい、ちょっと待て!!言った!!今、言っちゃったよ!!

「や、やっぱりそうなの?私たち……」
思わず声が漏れる。自分のことなのに、どこか他人事みたいに感じてしまって。

兄の目線が、すっと私に移る。
「……お前、彼氏できたのか?」

ああああ……来た。
兄の視線に射抜かれて、私はパニックになった。
ただでさえ、元ヤンで喧嘩っ早かった兄。私に彼氏なんてできたと知ったら……。

「な、なんといいますか……」
口から出る言葉は迷子で、頭の中は真っ白。

隣で蒼は真剣な表情を崩さず、でもその手が小さく握られているのが見えた。
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