イケメン年下君がメロメロなのは、私って本当ですか？

【Said蒼】

取引先との打ち合わせに同席したときだった。

「久しぶりだね、蒼くん」

会議室に入るなり、彼女はそう言って微笑んだ。
けれどその微笑みには、どこか棘のようなものが混じっていた。

俺は驚いた。そこには、大学のゼミで一緒だった、里中美和がいた。

彼女は続けた。
「学生の頃は無愛想で、人と話すのが苦手だったのに、今はすっかり変わったのね」

蒼は苦笑して、少しだけ肩をすくめた。
「……そうかな」

俺は思った。里中は、昔の俺――まだ不器用で人付き合いも下手だった頃と、今、真緒と出会い、笑顔が増え、周りとも自然に関われるようになった俺に、引っかかりを覚えている。
そんなこと、彼女が気にすることではないのに。

｢誰が変えたのかしら｣

え……？
まさか……？

打ち合わせが終わった後、里中は、俺に近づいてきて小さな声で呟いた。
「……大学の頃の、蒼くんの方が蒼くんらしいよ」

――里中が電話の主……？。

｢俺は、今の俺の方が好きだし、里中には関係ない」
その一言に、彼女の目がわずかに揺れる。
けれどすぐに平静を装って、ふっと笑った。

「昔は、私がいなきゃ何もできなかったくせに」
美和は低い声で呟いた。
「今じゃ笑って、誰とでも話して……。それって、本当のあなた？」

俺は一瞬黙った。――こういう「圧」を正面から受けるのが昔から苦手だった。でも、今は、今までの俺をバカにされているようで、許せない。

「俺は変わったんだよ」

美和はふっと笑う。
「変わったんじゃない。変えられたんでしょ？彼女に」

わざと「昔の蒼」を呼び戻そうとでもするかのように挑発する。

「ねえ、蒼くん。あなた、本当に分かってるの？
人に変えられた自分なんて、ちょっとしたことで壊れるのよ」

蒼は悔しそうに唇を噛んだ。
けれど、私の手を強く握り返す。
「違う。俺は、真緒と出会って初めて……自分で変わりたいと思ったんだ」

一瞬、美和の表情が凍りついた。
だがすぐに、挑発的な笑みを浮かべる。

その笑みには、過去を知っている自信と執念がにじんでいた。

｢お前、会社に電話したのか？｣
｢さあ、なんのこと？｣
｢……これ以上俺たちに関わるな｣

俺は静かに里中に忠告する。
里中は、何も分からないという顔をしながらも、自信に満ち溢れた笑みを浮かべていた。