イケメン年下君がメロメロなのは、私って本当ですか？

【said蒼】

俺は、重い気持ちを抱えながら会議室のドアを閉めた。最後の打ち合わせの日。けじめをつけるには、今日しかない。
相手の顔を見ると、里中はどこか疲れ切った表情をしていた。それでも、その目には奇妙な執着のような光が残っている。

「……他の営業の人に聞いた。今月で辞めるんだってな。田舎に帰るらしいじゃないか。」
沈黙。里中は何も返さない。

「理由も聞いたよ。妻子ある人を好きになって、責任を取るんだろ。」
静かに告げると、彼女のまつげが一瞬震えた。図星らしい。

蒼は息を吐いて、まっすぐに言葉を放った。
「……でもな。自分の恋愛がうまくいかないからって、他人を巻き込むのは、あんまりだろ。迷惑なんだよ。」

会議室に冷たい沈黙が落ちた。里中は唇を噛んでいたが、やがてぽつりと呟いた。

「……なんで、あの人だったの。」
「……は？」
「かなり年上だし、美人でもないし。この前、蒼くんとあの人が楽しそうに歩いてるの、見たの。あんなに蒼くんが笑ってるなんて、驚いた。……あんなに陰キャだった蒼くんが、どうしてあの人と……」

その言葉に、蒼の胸の奥で、何かが鋭く弾けた。
「……失礼だな、お前。確かに、あの頃の俺は陰キャだった。無愛想で、周りとも壁をつくってた。けどな――俺は変われたんだよ。人間は変われるんだ。」
言葉を強め、机に置いた拳に力がこもる。

「真緒に出会って、俺は笑えるようになった。心から誰かを想えるようになった。だから、もう二度と真緒には近づくな。もしまた絡んだら……実家にだって苦情を入れる。俺は絶対に、あの人を守るから。」

里中は一瞬、表情を崩した。
けれど彼女は結局、何も言わなかった。

蒼は深く息を吐き、椅子から立ち上がった。
その背中には、もう迷いはなかった。
会議室のドアを開け、閉めると同時に――彼の心の中では、すでに真緒の笑顔だけが鮮やかに浮かんでいた。