温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
鳥居を抜け、静かな参道を歩いていると、前方から聞き覚えのある声がした。
「……波瑠? もしかして波瑠じゃないか?」
振り返ると、背の高い男性がこちらに歩いてくる。
少年のころ一緒に磯でカニを探した記憶がよみがえった。
「……大地くん?」
思わず声に出すと、彼はにっと笑った。
「やっぱり! 久しぶりだなぁ。恵美から時々名前は聞いてたけど、会うのは何年ぶりだろうな」
懐かしさに胸が温かくなる。
ほんの一瞬で、子供の頃に戻ったような気持ちになった。
会話の中で、大地はふと思い出したように言った。
「そういえば……ちょっと相談があるんだ。実は、うちのばあちゃんが亡くなってさ。古い家が一軒空いてるんだよ。俺たちが小さい頃、縁側でスイカを食べたの、覚えてる?」
「覚えてる……あの古民家?」
波瑠の胸に、夏の日差しと笑い声の記憶がよみがえる。
「ああ。今は誰も住んでないし、壊すのももったいなくてな。借りてくれる人を探してるんだ。短期でもいいし、気に入ったら長くてもいい。都会から来る人には人気でさ」
大地の言葉に、波瑠の心が少しざわめいた。
(……住まいを探してる私に、ちょうどいい?)
偶然の再会が、思いがけない未来への扉を開いた気がした。
夕方、波瑠は恵美と大地に連れられて、細い坂道を上っていった。
山の斜面に寄り添うように建つ古民家は、すでに夕陽に包まれて、瓦屋根がオレンジ色に染まっていた。
「……わあ」
思わず声が漏れる。
木の格子戸、苔むした石垣、そして広い縁側。
子どもの頃、夏休みにみんなでスイカを食べたり、夜には花火をしたりした記憶が一気によみがえる。
大地が戸を開けると、ひんやりとした空気とともに木の匂いが漂った。
柱や梁には年月を刻んだ色合いがあり、どこか落ち着きを与えてくれる。
縁側に腰を下ろし、しばらく沈黙のあとで大地が口を開いた。
「東京と比べて何にもない街だけど……結構、人手不足のところもあるんだ。
漁協の手伝いとか、直売所で野菜を並べるとか。どれも簡単な仕事だけどさ」
波瑠は静かに耳を傾けた。
「給料ってほどのもんでもないけど、暮らしていくには十分だと思う。
もし、こっちで手伝いたいって思ったら言ってくれ。きっとすぐにでも紹介できるから」
その声は穏やかで、無理に勧めるでもなく、ただ“ここで生きていける道がある”と伝えてくれているようだった。
恵美がにっこり笑い、うんうんと頷いた。
「ね、波瑠。ここなら安心して暮らせるかもよ」
夕暮れの光が縁側に差し込み、三人を柔らかく包み込んでいた。
「……波瑠? もしかして波瑠じゃないか?」
振り返ると、背の高い男性がこちらに歩いてくる。
少年のころ一緒に磯でカニを探した記憶がよみがえった。
「……大地くん?」
思わず声に出すと、彼はにっと笑った。
「やっぱり! 久しぶりだなぁ。恵美から時々名前は聞いてたけど、会うのは何年ぶりだろうな」
懐かしさに胸が温かくなる。
ほんの一瞬で、子供の頃に戻ったような気持ちになった。
会話の中で、大地はふと思い出したように言った。
「そういえば……ちょっと相談があるんだ。実は、うちのばあちゃんが亡くなってさ。古い家が一軒空いてるんだよ。俺たちが小さい頃、縁側でスイカを食べたの、覚えてる?」
「覚えてる……あの古民家?」
波瑠の胸に、夏の日差しと笑い声の記憶がよみがえる。
「ああ。今は誰も住んでないし、壊すのももったいなくてな。借りてくれる人を探してるんだ。短期でもいいし、気に入ったら長くてもいい。都会から来る人には人気でさ」
大地の言葉に、波瑠の心が少しざわめいた。
(……住まいを探してる私に、ちょうどいい?)
偶然の再会が、思いがけない未来への扉を開いた気がした。
夕方、波瑠は恵美と大地に連れられて、細い坂道を上っていった。
山の斜面に寄り添うように建つ古民家は、すでに夕陽に包まれて、瓦屋根がオレンジ色に染まっていた。
「……わあ」
思わず声が漏れる。
木の格子戸、苔むした石垣、そして広い縁側。
子どもの頃、夏休みにみんなでスイカを食べたり、夜には花火をしたりした記憶が一気によみがえる。
大地が戸を開けると、ひんやりとした空気とともに木の匂いが漂った。
柱や梁には年月を刻んだ色合いがあり、どこか落ち着きを与えてくれる。
縁側に腰を下ろし、しばらく沈黙のあとで大地が口を開いた。
「東京と比べて何にもない街だけど……結構、人手不足のところもあるんだ。
漁協の手伝いとか、直売所で野菜を並べるとか。どれも簡単な仕事だけどさ」
波瑠は静かに耳を傾けた。
「給料ってほどのもんでもないけど、暮らしていくには十分だと思う。
もし、こっちで手伝いたいって思ったら言ってくれ。きっとすぐにでも紹介できるから」
その声は穏やかで、無理に勧めるでもなく、ただ“ここで生きていける道がある”と伝えてくれているようだった。
恵美がにっこり笑い、うんうんと頷いた。
「ね、波瑠。ここなら安心して暮らせるかもよ」
夕暮れの光が縁側に差し込み、三人を柔らかく包み込んでいた。