空気みたいだとあなたが仰ったので。~地味令嬢は我慢をやめることにした~
 だが、それはただの出来心だった。
 むしゃくしゃしていたから、僕は何も考えずにカミラと甘い言葉を交わしていただけで――。

「それがどれほど彼女とエバンス伯爵家の顔に泥を塗ったか。どうやら今回が初めてではないようだが、きちんと考えたことがあるのか?」

「……っ、いやしかし! そんなものはリリアナの言い分でしょう? 確かにカミラと話していましたが、そのような事は一切ありません。慰謝料欲しさにでっち上げているのでしょう」

 幸い、あの場にいたのはリリアナだけだ。
 自分を有利な立場に持っていこうと虚偽の証言をするのはよくあること──そういう形に持っていけば、そのあたりは上手くやれるかもしれない。

 そう思って告げると、父は苦悶するように頭を押さえた。

「……この期に及んで、お前は……! お前がしでかしたことの音声・映像共にしっかりと残っておるそうだ!」

「は……なんだよそれ! リリアナが最初から仕組んでたのか!? 大人しい顔をして、とんだ女狐だな!」

 だからあの時リリアナはあの場所にいたのか?
 だったら嵌められたのは僕の方じゃないか!

 怒りに任せてそうぶちまけると、父の顔から色が消えた。
 全てを見限ったような、そんな顔をしている。

「証拠は全て、《《偶然》》その場に居合わせた御方が記録していたものだ」

「……っ、そんなことは関係ない!」

 僕は叫ぶように言った。

「僕はカミラと自由に恋愛をしていただけだ! リリアナとは、そもそも……」

 だが、その言葉を最後まで言えなかった。
 父の冷たい視線が、僕の喉元を締め付けるようだった。

「ならば好きにしろ」

 静かな一言が落ちる。
 そして――

「だが、家のことはお前に任せられん。お前はもう次期当主ではない」

「――なんだって?」

 言葉の意味が、理解できなかった。

「お前はもう、ただの伯爵子息だ。家の跡継ぎには、別の者を立てる」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 慌てて立ち上がったが、父はもう目も合わせようとしなかった。

「お前の軽率な行動のせいで、家の立場は危うくなっている。これ以上、愚行を重ねさせるわけにはいかん」

 ――そんな、嘘だろ?
 伯爵家の次期当主の座を、失った……?
 僕が間違っていたというのか?
 信じられない。何がいけなかった?
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