空気みたいだとあなたが仰ったので。~地味令嬢は我慢をやめることにした~
2話
屋敷の門が見えてきて、私は小さく息を吐いた。
王宮の庭園で目撃した光景。
婚約者のエドワード様とカミラさんの親しげな姿、そして彼の口から発せられた言葉――あの瞬間、何かが決定的に終わったのを感じた。
それなのに、思っていたほどの悲しみはない。ただ、ようやく肩の荷が下りた気がしていた。
馬車が止まり、玄関へと続く石畳の上に降り立つ。
エバンス伯爵家は格式高い名家ではあるが、華美な装飾は控えられ、落ち着いた雰囲気が漂っている。
玄関のアーチには繊細な彫刻が施され、春の陽光を受けたアイボリー色の石壁が穏やかに輝いていた。
扉の前には使用人たちが並び、出迎えのために控えている。
執事が扉を開くと、馴染み深い屋敷の香りが鼻をくすぐった。
焼きたてのスコーンと、花の香り――いつもの家だ。
「お帰りなさいませ、リリアナ様」
使用人たちが一斉に頭を下げる。
「ただいま戻りました」
静かな声で返しながら、私はそっと裾を持ち上げ、屋敷の中へ足を踏み入れた。
大理石の床が陽光を反射し、広々とした玄関ホールには品のあるシャンデリアの灯りが柔らかく揺れている。
装飾の施された柱や、壁に飾られた絵画が整然と並び、この屋敷の静かな気品を象徴していた。
「皆様はサロンでお茶をしております。リリアナ様も向かわれますか? すぐにご用意いたします」
「……ええ。お願い」
執事の言葉に、私は軽く頷く。
王宮のお茶会に参加したのに、こうして一人で早く帰ってきた私のことをこの執事長も不思議に思っているだろうに、そのことをおくびにも出さない姿はやはりプロだなと感心する。
王宮の庭園で目撃した光景。
婚約者のエドワード様とカミラさんの親しげな姿、そして彼の口から発せられた言葉――あの瞬間、何かが決定的に終わったのを感じた。
それなのに、思っていたほどの悲しみはない。ただ、ようやく肩の荷が下りた気がしていた。
馬車が止まり、玄関へと続く石畳の上に降り立つ。
エバンス伯爵家は格式高い名家ではあるが、華美な装飾は控えられ、落ち着いた雰囲気が漂っている。
玄関のアーチには繊細な彫刻が施され、春の陽光を受けたアイボリー色の石壁が穏やかに輝いていた。
扉の前には使用人たちが並び、出迎えのために控えている。
執事が扉を開くと、馴染み深い屋敷の香りが鼻をくすぐった。
焼きたてのスコーンと、花の香り――いつもの家だ。
「お帰りなさいませ、リリアナ様」
使用人たちが一斉に頭を下げる。
「ただいま戻りました」
静かな声で返しながら、私はそっと裾を持ち上げ、屋敷の中へ足を踏み入れた。
大理石の床が陽光を反射し、広々とした玄関ホールには品のあるシャンデリアの灯りが柔らかく揺れている。
装飾の施された柱や、壁に飾られた絵画が整然と並び、この屋敷の静かな気品を象徴していた。
「皆様はサロンでお茶をしております。リリアナ様も向かわれますか? すぐにご用意いたします」
「……ええ。お願い」
執事の言葉に、私は軽く頷く。
王宮のお茶会に参加したのに、こうして一人で早く帰ってきた私のことをこの執事長も不思議に思っているだろうに、そのことをおくびにも出さない姿はやはりプロだなと感心する。