下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
 ティムが開いた包みに入っていたのは、真っ白い毛皮を金色の糸で縁取った深い青色のベルベット生地だった。

「これ……」

 思わず息を飲む。
 高級なんてものではない。こんなものが一般に出回るわけない。
 なにより引っかかったのは生地の色。
 深い青はルブゼスタン・ヴォルシスの国色である。
 思わずチャリオを見た。チャリオも驚いている様子だった。ニコラと目が合うと彼は頷いた。

 ────そう、これは盗まれたマントだ。

「ティム、これどうしたの?」

 ニコラは出来るだけ自然に訊いた。

「ねえ、これ売ったらいくらになる?ニコラ姉ちゃんならわかるだろ?」
「ティム、こんなすごいの、売れないわ」
「ねえ、これ売って母さんの薬を買いたいんだ」
「ティム、聞いて」
「ニコラ姉ちゃん、一緒にこの生地売れるところ探してよ。こんなすごいの、見た事ないでしょ?」
「ティム」

 ニコラはティムを抱きしめて、優しく、ゆっくり訊いた。

「ティム、お願い。教えて。この生地、どうしたの?」

 不意に抱きしめられてティムは黙った。ニコラは辛抱強く待った。暫くして、ティムは少しずつ話し始めた。

「朝、いつも通り配達してて」
「うん」
「よそ見してたらぶつかったんだ。年が同じくらいの子と」
「それで?」
「多分、その時、持ってた包みが逆になったんだ。でも、その子、急いでたみたいですぐどっか行っちゃって…。落ちてた方の包みを持ったら、さっきと重さが違ったからおかしいなって思って見たら……」
「これが入ってたの?」

 ティムからの答えはなかった。けれど、それが答えだった。腕の中からティムの嗚咽が聞こえた。

「母さん、最近、咳が止まらないんだ。ずっと、ずっと咳してるんだ。もし、このまま悪くなったら、どうしよう……っ」

 ティムは本当はわかっていた。これがいけない事だって。わかっていたけど、どうしようも出来なかった。ただ、家族を失うのが怖かっただけ。去年、たった唯一の家族を失ったニコラには痛いほどその気持ちがわかった。一体、誰がこの少年を責めれるだろう。
 ニコラはティムを抱きしめる腕に力を込めた。

「辛かったね」

 ニコラがそう言うと声をあげてティムは泣き始めた。チャリオはそんな二人の様子を静かに、けれど燃えるような瞳で見つめていた。

「あー!いた!やっと見つけたわ、ロロ」
「やったね、マーリー!」

 突如、二人の子供が現れた。顔が良く似ている。双子のようだ。

「ニコラ姉ちゃん!あの子!あの子の包みと入れ替わっちゃったんだ!」

 ティムが叫んだ。

「もしかして……ライアンさんが言っていた双子ってこの子達?」
「多分、そうだろう」

 ニコラの問いにチャリオが答えた。

「もう!このあたしに小麦粉を運ばせるなんて最っ悪!信じられない!!」

 マーリーと呼ばれた双子の女の子は憤慨して言った。すると続けて広場の方から

「ニコラちゃーん、チャリオー!もう何処に行ったのかと思った!」

 と、ライアンが現れた。
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