下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
「あんまり遅いから月星亭に行ったらいなくて、聞いたら広場に行ったって言うからさ~…って、君たちはこの前の!?!?」

「「げっ」」
「『げっ』とは何だ!全ては君たちの仕業だったんだな!」
「なーんだ。もうお見通しってわけ?バレちゃしょうがないね」
「ロロ!」

 マーリーという双子の女の子に呼ばれて、双子の男の子がマントが入った包みに手を伸ばす。しかし、先に包みを手にしたのはチャリオだった。チャリオは包みを抱えて走り出した。

「こらー!待ちなさーい!」
「待てー!!」

 チャリオの後をロロとマーリーが追った。

「チャリオ!」

 ニコラが叫ぶ。

「ライアンさん、ティムをお願い!」

 ライアンにティムを託して、慌ててニコラもチャリオの後を追った。 

「え?え!?ちょっ、ちょっとニコラちゃん!?」

 取り残されたライアンは、遠ざかるニコラたちの背中と、またもや泣き出してしまったティムとを交互に見比べる。

(ああ…これでまたアベルに怒られること確定だ~……)

 アベルの怒りMAXの説教を想像したライアンは肩を落とした。



  *    *    *



 チャリオは包みを抱えながら、時々バランスを崩しそうになりながらも舗装されていない石畳を走り続けた。

「あっあの子なんなの!」
「見かけによらず足速いよね!」
「感心してる場合じゃないでしょ、ロロ!」

 ロロとマーリーは息を切らしながらも、必死でその背中を追っていた。距離こそ詰められないものの、視界からは逃がさない。
 しかし、その追いかけっこは唐突に終わりを迎える。土地勘のないチャリオが入り込んだ先は、行き止まり。逃げ場はなかった。

「ゼイ、ゼイ……追いつめたわよ!」
「その包みを…ゼイ……こっちに、ゼイ……渡すんだ!」

 息切れを起こしている二人とは対照的に、チャリオはまるで疲れた様子がない。ただ静かに、包みをぎゅっと抱きしめている。

「チャリオ!」

 遅れて駆けつけたニコラが、チャリオに背中を向けて、ロロとマーリーの前に両手を広げて立ちはだかる。

「大人が出てくるなんて卑怯よ!」

 マーリーが非難の声を上げると

「人を騙すなんて卑怯じゃないか?」

 と、チャリオは冷静に返した。

「うっ、うるさい!うるさいうるさいうるさーい!!」

 怒りに任せてマーリーがニコラに掴みかかろうとした、その瞬間だった。

「────お前たち、マントは見つけたんだろうな?」

 低く響いた男の声に、ロロとマーリーが振り返る。突然現れたのは黒い外套を纏った人物。深いフードを被っているので顔まではわからない。
 男は彼は静かに辺りを見渡す。ロロとマーリー、そしてニコラとチャリオを見据えると、ふっと鼻で笑った。

「人に見られやがって。本当にお前らはどうしようもない役立たずの愚図だな」

 その言葉にロロは怯え、マーリーは男を鋭く睨んだ。

「見られたんならしょうがないな」

 そう言って、男は懐から小瓶を取り出した。ロロとマーリーの横を通り過ぎてニコラとチャリオにゆっくりと歩み寄る。近づいていくる男に恐怖を感じながらもニコラはチャリオを守ろうと強く抱きしめた。
 男は小瓶の蓋を開けると、中身を振りまいた。
 瞬間、ニコラとチャリオの視界が歪む。
 意識が沈んでいくなか、聞こえたのは男の冷酷な声だった。

「さっさと運べ。お前たちは運ぶしか能のない、役立たずの卑しいハルヴァ(なり損ない)でしかないんだからな」
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