下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜

第四章

 ────寒い

 ニコラは自分を抱きしめるようにして寝返りを打つと、ゴツゴツとした地面の冷たさに思わず飛び起きた。

「ここは何処……?」

 頼りない一本の蝋燭の灯りが、今にも消えそうなほど小さく揺らめいている。見上げると、高さが三メートルほどはあるだろうか。ごつごつとした石の天井に不規則な影がうごめいていた。灯りの届く範囲はごくわずかで、周囲はほとんど闇に沈んでいる。それでも目を凝らせば、壁のあちこちに通路らしき暗がりが続いていることがわかった。それはまるで、巨大な蟻の巣の中に迷い込んだようだった。湿った空気に混じって、土と石の強い臭いが充満していた。

 まだはっきりとしない頭でニコラは記憶を辿る。
 ロロとマーリーという双子の子供を追って、それから、突然現れた黒い外套の男に眠り薬みたいなものを撒かれて……そうだ

(チャリオは……!?)

 慌てて辺りを見回すが、彼の姿はどこにもない。

「……チャリオ?」

 呼んでも返事はなかった。急に心細さがニコラを襲う。
 ふと、この空間に続く通路の奥からぼんやりと灯りが見えた。その灯りはどんどん近づいてくる。ニコラは身構えた。
 しかし、現れたのは灯りを手にしたチャリオだった。

「ニコラ、目覚めたのか」

 チャリオの姿を見て、ニコラはほっと息をついた。怪我はないようだ。

「チャリオ、何処に行っていたの?」
「ここが何処なのか、わかるものがないかと周辺を調べていた」

(こんな薄暗闇を一人で?)

 ちっぽけな灯り一つで怖くなかったのだろうか、と思ったがチャリオは平然としている。年下のはずなのに、なんて肝が据わっているんだろう。不安な気持ちでいっぱいの自分をニコラは恥じた。

(しっかりしなくちゃ)

「何かわかった?」
「いや、詳しくはわからない……。ただ、どうやらここは採掘現場のようだ」
「採掘現場?」
「使われた形跡のあるシャベルやトロッコが置いてあった。土も乾燥していない。掘られて間もない証拠だ。誰もいないところを見ると、外は夜なんだろう」

 チャリオは顎に手を添えて少し考えた後、口を開いた。

「ルブゼスタン・ヴォルシス国近辺でこのような場所と言えば、現在進めているウルクフェド国とのトンネルの工事現場、か…?」
「どうしてそんな所に私たちを?」
「わからない」

 チャリオは持っていた灯りをそっとニコラの傍に置き、その隣に腰を下ろした。灯りが二つになり、僅かとはいえ部屋の明るさが増す。蝋燭は通路の途中で見つけたものだと、チャリオが説明してくれた。チャリオが隣にいてくれることが、ニコラの胸を一番落ち着かせてくれた。
 しばらくの間、二人の間に静かな沈黙が流れる。何を話せばいいのか分からず、けれどずっと黙っているのも落ち着かなくて、ニコラは先ほどの話の続きを切り出すことにした。
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