下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
「カーチス家は、すごいことを成し遂げたのね」
「ああ。本当にすごい。どの国もなし得なかったことだ」
「どうして急に取引する気になったのかしら?」
「それがよくわからないんだ」
「よくわからない?」
「カーチスの現当主が直接話をつけてきたらしいのだが、変わり者らしく、全然情報がまわってこない」
「不思議……」
「貿易するにあたって、問題は国境沿いの山だった。険しい山で交易の度に誰かの命を落としかねない。かと言って、これまでのように山を迂回するとなると時間がかかりすぎる。だからウルクフェドとの本格的な交易に向けて、トンネルの開通が進められているんだ」

 そこでチャリオは黙った。彼の中で何か引っかかっているようだ。
 チャリオとは別にニコラも引っかかる点があった。考え込むチャリオの横顔を見つめる。

(どうしてこんなに他の国のことに詳しいんだろう?)

 貴族の子どもって、みんなこんな感じなんだろうか。ニコラは貴族のことに詳しいわけではないが、それでもチャリオには、どこか普通の貴族とは違う空気を感じていた。どこか浮世離れしていて、言葉の端々から感じる不思議な重み。最初に出会った時から感じていた違和感が、今もずっと胸に引っかかっている。誰かに似ているような気がする。けれど、それが誰なのかが思い出せない。
 心の中でいくつかの顔を思い描いていると、不意にまたチャリオの瞳が金色に光った気がした。ほんの一瞬の出来事。でも、もう見間違いとは思えなかった。

 そうだ。
 この瞳。

「ねえ、チャリオ」
「なんだ?」
「あなた、もしかして」

 何を馬鹿なこと、と言われてもいい。思いきって訊いてみる。

「ユリシーズ殿下?」

 チャリオの目が、かすかに見開かれた。

(あ。やっぱり)

 その全然驚いてないように見えて、きっと本人は最大限に驚いているその表情。
 初対面の時に見た、ユリシーズ殿下の表情そのものだった。

「……何故、わかった」

 チャリオは伏し目がち言った。

「えっと……さっきの説明で、ルブゼスタン・ヴォルシス国のこと、我が国って言ってたし、あんまり自分が住んでいる国でも。我が国って言わないかなぁって」
「ああ、そうか……。確かに、そうだな……」

 全然気づいていなかったらしい。国の話だと素が出てしまうのだろうか。

「あとね、瞳が時々、金色に光るの」

 最初は蛇のような爬虫類の瞳に思えて足が竦んだけど、そうじゃなくて、もっと……そう、鷹とか梟とか猛禽類に近い瞳だと、ニコラは思った。

「瞳については……すまない、自分の力が及ばないんだ」

 チャリオ……もとい、ユリシーズは目を手で覆った。
 ニコラは慌てて弁明する。

「あ、あの、怖いとかそう言うんじゃないの!最初はちょっとびっくりしたけど、ボタンみたいだなって思っただけで」
「……ボタン?」
「う、うん。昔、小さい頃、お店で見かけた金色のボタンに一目惚れしたことがあって。でもすごく高くて、買えなかった。そしたら、誕生日におばあちゃんがそのボタンをプレゼントしてくれて……未だにもったいなくて使ってない、大切にしてる金色のボタンがあるの」

 話している途中から後悔の嵐だった。瞳をボタンに例えられて喜ぶ人なんているだろうか。ケイトだったらこういう時、上手にフォロー出来るんだけどな……。
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