下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
「……ごめんなさい。ユリシーズ殿下の瞳をボタンなんかに例えて」

 申し訳なくなったニコラは視線を落として謝った。

「いや……、ニコラは優しいのだな」

 思いがけない言葉に驚いて顔を上げると、ユリシーズが笑みを浮かべていた。
 笑うと切れ長の瞳が、うんと柔らかい印象に変わる。
 少年の姿なのにユリシーズ本来の姿が重なって見えて、ニコラは自分の頬が熱くなるのを感じた。

「そ、それより、その姿、一体どうしたんですか?」
「ああ、この姿は幼い時の姿だ。王宮の外に出るのだからせめて姿を変えようと思って……アベルは嫌がったがな。チャリオという名は、アベルの兄の名を借りた。本当はニコラと同じくらいの背丈に合わせたかったのだが、調節が効かなかった」

(幼い時の姿……?調節……?)

 ニコラは混乱した。

「恥ずかしい話だが、能力の加減が……上手く出来ない。瞳の色が変わるのもそのせいだ。周りに同じハルヴァがいないので対処の方法もわからず困っている」
「え……?」

 ハルヴァ?
 ユリシーズ殿下が?
 しかも能力を持ってる……?

「あの、それ」
「どれだ?」
「いや、その、ユリシーズ殿下がハルヴァって……私が聞いても大丈夫なことなんですか?」
「公にはしていないが、別に隠してもいない」

 一気に冷や汗が出た。

(公にしていないって、十分すぎる国家秘密では!?)

 ニコラは思わず心の中で叫んだ。

「まあ、ニコラになら話しても問題ないだろう」
「ア、アベルさんに怒られませんか!?」
「アベル?気にしなければいい」

 あっさりとしたユリシーズの返答に、ニコラは思わず肩の力が抜けた。

(なんて言うか、ユリシーズ殿下って神がかった美貌の持ち主で、物静かで、一見、繊細に見えるのに、大らかな性格というか飄々としているというか、ざっくりしているというか……正直、よくわからない人)

 なんとなくアベルの苦労が感じとれてニコラは、少しだけアベルに同情した。
 でも、チャリオが実はユリシーズ殿下だった、と解って、これまの違和感が全て腑に落ちた。

 姿を変えてまでシンシア・グローリーのデザイン画の捜索の手伝いに来たのは、きっと亡くなられた先王、彼の父親であるバルコイ王とシンシア・グローリーの繋がりを知りたかったから。
 そして、下町で出会ったティムと、ティムのお母さんのことで心を痛めたのは自分がこれから治める国の実情を知ってしまったから。

 ……私は何日か前まではただの下町のお針子だったはずなのに、気づけば国の一大事に巻き込まれてる。とんでもない秘密まで知ってしまった。

(ルブゼスタン・ヴォルシス国の王子がハルヴァだったなんて……!)

 ユリシーズ殿下がアベルに怒られなくても、自分は怒られるんじゃないだろうか、と、ニコラは不安になる。秘密を知ってしまった以上、それなりの末路を覚悟しておいた方がいい気がしてならない。

(例えば、王宮の一室に幽閉されて、一生テーブルクロスを縫わされるとか……!?)

 そんな想像が脳裏をよぎる。
 隣をちらりと見ると、当のユリシーズ殿下は相変わらず涼しい顔で蝋燭の火を見つめている。
 ニコラは小さなため息を漏らした。
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