下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
「それは、どれくらいかかるんだ?」
「三日……いえ、二日でやります」
「……あまり日がないのではないか?」
「ありません」

 その声音には、いつになく張りつめた気配があった。そんなニコラを気遣って、ユリシーズは尋ねた。

「そんなに大幅な手直しが必要なほど、伸びていたのか?」
「……いえ」
「それなら、今のままでも」
「いいえ」

 ニコラははっきりと否定した。

「この衣装のデザイン画を見たとき、私、感動したんです。装飾を限りなく抑えて、シルエットの綺麗さを追求してて……人の体のことをすごくよくわかってる。デザイン画を見たとき、ユリシーズ殿下にすごく似合うだろうなって思ったんです」

 そう言って、彼女はまっすぐユリシーズを見た。

「だから私、妥協したくありません。この衣装が、ユリシーズ殿下に相応しいのを知ってるから。だから、絶対、諦めたくないんです」

 いつもの柔らかく穏やかな印象の彼女が、今はまるで別人のように見える。
 その瞳には、職人としての誇りと、情熱が宿っていた。

「……間に合わないかもしれないぞ」
「わかってます」
「それでもやるのか?」
「やります」
「やりきれなかったら、どうするんだ?」

 ニコラはぎゅっと目を閉じて一瞬考える。そして答えた。

「それでも、やります……!」
「ふ、」

 ユリシーズの口元から笑みが零れた。普段は見せない、柔らかな表情。ニコラは我に返って、自分の言葉の幼さに気づいて赤くなった。

「悪い。意地悪なことを言った」
「い、いいえ!私こそ、偉そうなことを言って、その」
「いや」
「あ、でも、本当に間に合わなかったらどうしましょう。なんだかいきなり緊張してきちゃった。間に合わなかったら、駄目ですよね?」
「いいんじゃないか?」
「えっ駄目ですよ!なんとか間に合わせますから」
「まあ、間に合わなかったら、アベルがなんとかするだろう」
「えぇ!? アベルさんにそんな迷惑かけられません!」
「気にしなくていい」

 それは気にした方がいいんじゃ、と言いかけたニコラだったが、一分一秒でも惜しい今は作業に戻らなければならないことを思い出す。

「今から急いで手直しに入りますね!ご試着ありがとうございました!」

 バタバタと部屋を後にするニコラの背に向かって、ユリシーズは小さく「ありがとう」と呟いた。
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