下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
「怪盗ジェド。君に協力してもらいたい」
「ハッ、まさか、なんで俺が」
女言葉だった口調が一転する。
「権力者の命令なんて真っ平ごめんだね。そういう話なら帰らせてもらう」
ジェドは吐き捨てるように言い放ち、踵を返した。そのジェドに向かって、ユリシーズはため息混じり言った。
「ニコラが悲しむな」
その一言に、ジェドの足が止まる。
「ニコラはティムのことを可愛がってるようだったからな」
「おい」
「ニコラは泣くだろうな」
「あんた…」
ユリシーズと目が合う。強い意志を持った瞳だった。
「ニコラのためでもか?」
ジェドは言葉を飲んだ。
ニコラは貴族ではない。下町に住む、自分の仕事に誇りを持ってる貧しい職人の女の子。このままだと、まっすぐで、笑顔の似合うあの娘が泣くことになる。
「………あんたらのためじゃない」
「そう。我々のためではない。協力感謝する、怪盗ジェド」
渋々承諾したジェドにユリシーズは不敵に微笑んだ。それを見てジェドは舌打ちした。
「あんた、思ったより良い性格してるな。したたかって言うか……」
「違います。したたかなんてもんじゃありません」
すかさず横からアベルの反論の声が飛んだ。
「は?」
「この容貌と普段の無表情のせいで物静かとか慎重とか思われがちですが全然。人の話は聞かない、考え方は大雑把、やると決めたら無理でも押し通す。それはもう、本当に力任せに。実際、物理的にも力が強すぎて、過去にドアノブや家具をいくつ壊されたことか……」
言っているうちにこれまであった数々の出来事を思い出したのか、アベルは苦渋の表情を露にした。ジェドは思わず同情の眼差しを向ける。
「あんたも大変なんだな」
「貴方、わかってます?」
「何が?」
「貴方はもう、それに巻き込まれたんですよ」
「はあ!?」
目を見開くジェドを尻目に、アベルは眼鏡をクイッと押し上げ、満面の笑みを浮かべた。
「でも、そのおかげで私の負担が減るのなら、こんな幸運なことはありません。どうやら、公にはできない方面で力になってくれる方のようで?今後とも宜しくお願いしますね」
その言葉に呆気にとられたジェドだったが、すぐにアベル、そしてユリシーズを恨めしそうに眺めた。
「あんたら、グルだったな」
「いいえ?でも長年の付き合いというものがありますからね」
アベルが涼しい顔で肩をすくめた。ユリシーズが話題を切り替える。
「それより、私が気にかかっているのは」
「双子は何故、戴冠式のマントを盗んだのか。そして、国境トンネルの爆破について、ですね?」
ユリシーズが言葉を続けるより先に、アベルが代わって口にした。「そうだ」と、ユリシーズは頷いた。気にかかっているのはジェドも同じだった。
ユリシーズとニコラが脱出した直後、爆破によって発生した激しい岩崩れは火の広がりを押さえ込み、幸いにも山林にまで延焼することはなかった。夜間で作業員もいなかったため、被害は最小限に留まった。この一件は事故として処理されたため、現在、工事現場は厳重な監視下に置かれ、出入りには王宮発行の許可証が必要となっている。
「共通しているのは、どちらもルブゼスタン・ヴォルシス国にとって重大な損失、という点ですね」
「黒幕がいることは間違いない。が、情報が少なすぎる」
「引き続き調査を行います」
「ジェドも何かわかったことがあったら教えてくれ」
「……気が向いたらな」
「ハッ、まさか、なんで俺が」
女言葉だった口調が一転する。
「権力者の命令なんて真っ平ごめんだね。そういう話なら帰らせてもらう」
ジェドは吐き捨てるように言い放ち、踵を返した。そのジェドに向かって、ユリシーズはため息混じり言った。
「ニコラが悲しむな」
その一言に、ジェドの足が止まる。
「ニコラはティムのことを可愛がってるようだったからな」
「おい」
「ニコラは泣くだろうな」
「あんた…」
ユリシーズと目が合う。強い意志を持った瞳だった。
「ニコラのためでもか?」
ジェドは言葉を飲んだ。
ニコラは貴族ではない。下町に住む、自分の仕事に誇りを持ってる貧しい職人の女の子。このままだと、まっすぐで、笑顔の似合うあの娘が泣くことになる。
「………あんたらのためじゃない」
「そう。我々のためではない。協力感謝する、怪盗ジェド」
渋々承諾したジェドにユリシーズは不敵に微笑んだ。それを見てジェドは舌打ちした。
「あんた、思ったより良い性格してるな。したたかって言うか……」
「違います。したたかなんてもんじゃありません」
すかさず横からアベルの反論の声が飛んだ。
「は?」
「この容貌と普段の無表情のせいで物静かとか慎重とか思われがちですが全然。人の話は聞かない、考え方は大雑把、やると決めたら無理でも押し通す。それはもう、本当に力任せに。実際、物理的にも力が強すぎて、過去にドアノブや家具をいくつ壊されたことか……」
言っているうちにこれまであった数々の出来事を思い出したのか、アベルは苦渋の表情を露にした。ジェドは思わず同情の眼差しを向ける。
「あんたも大変なんだな」
「貴方、わかってます?」
「何が?」
「貴方はもう、それに巻き込まれたんですよ」
「はあ!?」
目を見開くジェドを尻目に、アベルは眼鏡をクイッと押し上げ、満面の笑みを浮かべた。
「でも、そのおかげで私の負担が減るのなら、こんな幸運なことはありません。どうやら、公にはできない方面で力になってくれる方のようで?今後とも宜しくお願いしますね」
その言葉に呆気にとられたジェドだったが、すぐにアベル、そしてユリシーズを恨めしそうに眺めた。
「あんたら、グルだったな」
「いいえ?でも長年の付き合いというものがありますからね」
アベルが涼しい顔で肩をすくめた。ユリシーズが話題を切り替える。
「それより、私が気にかかっているのは」
「双子は何故、戴冠式のマントを盗んだのか。そして、国境トンネルの爆破について、ですね?」
ユリシーズが言葉を続けるより先に、アベルが代わって口にした。「そうだ」と、ユリシーズは頷いた。気にかかっているのはジェドも同じだった。
ユリシーズとニコラが脱出した直後、爆破によって発生した激しい岩崩れは火の広がりを押さえ込み、幸いにも山林にまで延焼することはなかった。夜間で作業員もいなかったため、被害は最小限に留まった。この一件は事故として処理されたため、現在、工事現場は厳重な監視下に置かれ、出入りには王宮発行の許可証が必要となっている。
「共通しているのは、どちらもルブゼスタン・ヴォルシス国にとって重大な損失、という点ですね」
「黒幕がいることは間違いない。が、情報が少なすぎる」
「引き続き調査を行います」
「ジェドも何かわかったことがあったら教えてくれ」
「……気が向いたらな」