下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
「嘘、まさか、どうして……!?」
思わず口をついて出た。
生地はユリシーズ殿下の祝賀会衣装と同じもの。そしてデザインは、確かに自分が描いたあのドレス。テーブルに重ねておいたデザイン画の中で、最後に描いたあの一枚だけが見当たらなかったことを、今になって思い出す。締め切りに追われていたその時は気にも留めなかった。
こんなことを思いついて実行するのは、一人しかいない。
「……ユリシーズ殿下だ」
まさか、持ち出していたなんて。
ニコラはそっとドレスに袖を通した。そして、衣装合わせのときに使った姿見を引き出して、全身を映す。
(嫌な予感、的中しちゃった……)
ウエストとヒップのサイズは問題なかった。問題があったのはバストと丈。このドレスはシンシア・グローリーに似合うようにイメージしてデザインしたのだ。気品と線の細いシルエットを前提にデザインした。鏡に写ったニコラはドレスの裾を引き摺りすぎていて、いつもは目立たないように工夫している、身長にわりに育ちの良いバストが強調されてしまっていた。
(これで人前に出るのはすごく恥ずかしい……!)
長すぎる丈と、妙に強調されてしまった胸元を鏡で見比べたニコラは、ほんの一瞬だけ迷って────すぐに決断した。鋏でドレスの裾を切って丈を詰める。作ってくれた人には悪いけど時間がない。祝賀会と言ってもそこまで長い時間はやらないだろう。祝賀会の間だけ持てば良い。
手早く裾の縫い目を処理し、余った布地は丁寧に折り、即席のショールとして肩にかけ胸の前で固定する。
もう一度鏡を見た。ドレスの丈はちょうど良くなり、ショールのおかげでバストも目立たない。
「とりあえず、これでいいかな」
ニコラはドレスと一緒に渡された靴を履いて、言われた通り隣の部屋へ向かった。
「まあ~!素敵じゃない!」
隣の部屋にいたのはネフィリスだった。
手招きされて、鏡台の前の椅子に座らされる。
「あら……?ニコラったら、意外と胸あるんじゃない?」
「えっ、あ、いえ、その……」
「もしかしてコンプレックス?」
「…………はい」
顔を赤らめて俯くニコラに向かって、ネフィリスはすかさず一蹴した。
「バッカね~!そういうとこがお子ちゃまなの! 女の武器は使える時に使っておきなさい!」
(使える時って、どんな時……?)
ニコラには想像もつかない。
「ま、いいわ。今日はカリスマ化粧師のこの私が、魅力を最大限引き出してあげる。腕が鳴るわ~!ねぇ、何か希望ある?」
────希望
誰もがその美しさを認める、シンシア・グローリーに似合うようにデザインしたこのドレス。
少し前に切りすぎた前髪は、ようやく落ち着いた長さに伸びてきた。
けど、それでも鏡の中の自分はこのドレスに不釣り合いだ。
なんとなく、これでユリシーズの殿下に会いたくないな、と思った。
そう思った瞬間、言葉が口から出ていた。
「綺麗に、なりたいです」
口に出したら余計恥ずかしくなる。
笑われるかな、と思ったニコラだったが、ネフィリスは鏡の中のニコラに向けて不敵な笑みを浮かべて言った。
「俺に任せて」
思わず口をついて出た。
生地はユリシーズ殿下の祝賀会衣装と同じもの。そしてデザインは、確かに自分が描いたあのドレス。テーブルに重ねておいたデザイン画の中で、最後に描いたあの一枚だけが見当たらなかったことを、今になって思い出す。締め切りに追われていたその時は気にも留めなかった。
こんなことを思いついて実行するのは、一人しかいない。
「……ユリシーズ殿下だ」
まさか、持ち出していたなんて。
ニコラはそっとドレスに袖を通した。そして、衣装合わせのときに使った姿見を引き出して、全身を映す。
(嫌な予感、的中しちゃった……)
ウエストとヒップのサイズは問題なかった。問題があったのはバストと丈。このドレスはシンシア・グローリーに似合うようにイメージしてデザインしたのだ。気品と線の細いシルエットを前提にデザインした。鏡に写ったニコラはドレスの裾を引き摺りすぎていて、いつもは目立たないように工夫している、身長にわりに育ちの良いバストが強調されてしまっていた。
(これで人前に出るのはすごく恥ずかしい……!)
長すぎる丈と、妙に強調されてしまった胸元を鏡で見比べたニコラは、ほんの一瞬だけ迷って────すぐに決断した。鋏でドレスの裾を切って丈を詰める。作ってくれた人には悪いけど時間がない。祝賀会と言ってもそこまで長い時間はやらないだろう。祝賀会の間だけ持てば良い。
手早く裾の縫い目を処理し、余った布地は丁寧に折り、即席のショールとして肩にかけ胸の前で固定する。
もう一度鏡を見た。ドレスの丈はちょうど良くなり、ショールのおかげでバストも目立たない。
「とりあえず、これでいいかな」
ニコラはドレスと一緒に渡された靴を履いて、言われた通り隣の部屋へ向かった。
「まあ~!素敵じゃない!」
隣の部屋にいたのはネフィリスだった。
手招きされて、鏡台の前の椅子に座らされる。
「あら……?ニコラったら、意外と胸あるんじゃない?」
「えっ、あ、いえ、その……」
「もしかしてコンプレックス?」
「…………はい」
顔を赤らめて俯くニコラに向かって、ネフィリスはすかさず一蹴した。
「バッカね~!そういうとこがお子ちゃまなの! 女の武器は使える時に使っておきなさい!」
(使える時って、どんな時……?)
ニコラには想像もつかない。
「ま、いいわ。今日はカリスマ化粧師のこの私が、魅力を最大限引き出してあげる。腕が鳴るわ~!ねぇ、何か希望ある?」
────希望
誰もがその美しさを認める、シンシア・グローリーに似合うようにデザインしたこのドレス。
少し前に切りすぎた前髪は、ようやく落ち着いた長さに伸びてきた。
けど、それでも鏡の中の自分はこのドレスに不釣り合いだ。
なんとなく、これでユリシーズの殿下に会いたくないな、と思った。
そう思った瞬間、言葉が口から出ていた。
「綺麗に、なりたいです」
口に出したら余計恥ずかしくなる。
笑われるかな、と思ったニコラだったが、ネフィリスは鏡の中のニコラに向けて不敵な笑みを浮かべて言った。
「俺に任せて」