溺愛している娘は俺の宝物だった

事情を知ったら

 1


 翌朝、私は眠たい瞳を擦りながら玄関を出た。

 門のすぐ前で、かなえが手を振っている。

「おはよう」

「おはよっ。昨日はどうだった?」

「……」

 面白げに見つめているかなえに、私は少しむっとした目を向け、門から出る。

「私は、昨日はどうだったって、きいてるのよ? 帰り遅かったみたいだし」

「……紳士でしたよ、彼は。ちゃんとエスコートしてくれて、夜には家まで送ってくれたし」

 私は、かなえと並んで歩き出す。

「でしょ? だってかなりいいところの息子さんらしく、自分で会社を経営してるし優秀みたいで」

「なら、どうして? かなえの身代わりなんて」

「私の好みじゃないのよ。十代の私を誘うなんてロリコンと疑うし、それにとても横柄で」

「彼は横柄ではなくて、本当に紳士だったけど」

「ならば、ゆみは気に入ってくれた?」

 かなえは、悪戯っぽく瞳を輝かせて、私を見ている。

「それは」

「お父さんに、私とのことはお断りの電話がきていたみたいよ? 他にいるって」

「え?」

「ゆみとは、はっきり言っていないけど。違うの?」

 彼の少しきつめの感じがする、切れ長の瞳。

 浮かぶ甘やかな光。

 彼とは、関わりたくないような、関わっていたいような。

 切なく心が軋む、複雑な感情が揺れている。

 私は、思わずかなえから目を逸らして、うつむいてしまった。
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