すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
 ***

 人の痛みは言葉にならない。羨望や嫉妬、悲嘆や苦悶。そして胸の奥に押し込められた邪念もだ。
 それらは形を持たず、しかし目に見えない振動となって外へ広がっていく。
 僕はそれを感じとる。
 感じたものを光と色に置き換えると、不思議なことにその人の澱みが薄れ、やがて光に還っていく。
 僕にとって絵画とは、心を癒やすものではなく、囚われたものを解放する手段なのだ。

 ***


 これらの言葉は、スヴェンが日記に書き記したというより、感情をぶつけたかのようだった。
 他の文章は穏やかな筆致で書かれているのに、この部分だけは乱雑で、熱を帯びている。

 エレノア様によれば、スヴェンは物静かで、滅多に感情を表に出さない人物だったという。
 けれど本当は、誰にも理解されない苦しみを、ひとりで抱えていたのかもしれない。


『吐き出さないと僕は壊れてしまう』

 その言葉が、彼の切実さを語っているように思えた。

< 121 / 231 >

この作品をシェア

pagetop