すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
 胸がぎゅっと縮む。
 血の気が引いて、視界が揺れた。
 右手が小刻みに震える。
 けれど、エリオスがそれを悟ったのか、ぎゅっと包み込むように握ってくれた。

「大丈夫だ。君はここにいればいい」

 その手が離れようとした瞬間、私は思わず彼の腕を支えるように掴んだ。
 立ち上がる彼の動作に合わせて、私もゆっくりと立ち上がる。

 エリオスはまっすぐ前を向き、静かにサイラスへ告げる。

「ちょうどいい。俺が会って話をつけてやる」

 その言葉に、胸がざわめいた。
 彼にすべてを任せてしまえば、きっと何もかも穏便に済むだろう。
 けれど、それでは、また私は守られているだけの存在だ。

「待って。私も行くわ」

 甘えてはいけない。
 逃げてばかりでは、あの家に縛られた私のままだ。

 エリオスがわずかに眉を動かす。

「君は父親に酷い目に遭わされたのだろう? これ以上傷つく必要はない」
「ええ。だからこそ、もう怯えたくないの。あなたがそばにいてくれればきっと大丈夫」

 エリオスは一瞬、言葉を失ったように黙り、そしてふっと口もとを緩めた。

「そうだな。これまでの鬱憤を思いきり晴らしてやればいい」

 その声音には、どこか優しい笑いが混じっていた。
 私は自然と笑みがこぼれ、力強く頷いた。


 もう、何も怖くないわ。

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