すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「私がここにいるとわかって来たのね?」
「この邸宅の中で、君の気配だけが一番よくわかる」
「まあ、だったら私がどこにいるか、あなたには筒抜けなのね」
「そういうことだ」

 そう言って、エリオスはわずかに口角を上げた。
 私はそっと彼の腕を取って支え、ふたりでベンチに腰を下ろした。

 彼は静かに空を仰ぐような仕草をした。
 その横顔は月の光を受けて淡く縁取られ、どこか神秘的に見えた。

「レイラ、星は出ているか?」
「ええ。月もとても綺麗よ」
「そうだろうな。まぶしい光の形だけ、なんとなくわかる」

 その言葉に、私は小さく息を呑んだ。

「感覚で見えているの?」
「ああ、そうだ。実際の月がどんなものかは、昔の記憶を頼るしかないが」

 彼の世界には、私が見ているものがどんなふうに映っているのだろう。
 同じ夜空の下で、同じ光を共有できているのだろうか。

 エリオスがそっと私の手に触れた。
 そのまま、包み込むように握りしめてくる。
 手のひらに伝わる体温とともに、彼の思いが流れ込んでくる気がした。

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