すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「よく見える。君はやはり、綺麗な人だ」
「……違うわ。私はもっと地味なドレスを着ているし、体型も痩せすぎて貧相よ。顔だって平凡なの。きっと実際に見たら、落胆するに決まっているわ」
「では、実際に触って確かめてみてもいい?」

 思いがけない返答にどきりとした。

 まさかそんな返しが来るなんて――


 エリオスの言葉はあまりに突拍子もないものだし、常識的に考えても到底受け入れられるものではない。
 婚姻前の令嬢に触れてもいいかなんて、婚約者でもない殿方が言っていい言葉じゃない。

 だけど――

「……いいわ。少し、くらいなら」

 拒絶しない私もおかしいのかもしれない。
 それでも、エリオスには触れてほしいという気持ちのほうが強かったから、拒む選択肢なんてなかった。


 私はそっと彼の手を取り、自分の顔に導いた。
 自分でも信じられないほどの行動に、顔が熱くなる。

 彼の指がためらうように私の頬をなぞる。
 その感触があまりに優しくて、胸の奥がきゅっと痛くなる。

 頬、耳、鼻筋、そして唇。
 指先が触れるたびに鼓動が速くなり、息が詰まりそうになる。
 体の奥から熱がせり上がってきて、どうしようもなく彼を意識してしまう。

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