すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「嫁ぎ先へ向かう途中、異国の者たちに襲われかけたの。逃げ出したところを助けてくれたのが、公爵様よ」

 アベリオは表情を和らげ、穏やかに微笑んだ。

「そうか。無事でよかった」

 なぜそんなことが言えるのだろう?
 そもそもアベリオの婚約破棄がきっかけでそうなったのに、今思うとこの人に何の心もなかったのだとよくわかる。

「では、失礼するわ」

 冷ややかに告げて立ち去ろうとすると、彼の手が私の腕を掴んだ。


「待って。話がしたいんだ」
「話すことはないわ」
「僕は、君とやり直したい」
「何を言っているの?」
「君を失って気づいたんだ。僕のパートナーは君しか務まらない」

 私は腕を振り払い、強い口調で言い放つ。

「ふざけないで。あなたはセリスを選んだでしょう?」
「違うんだ。セリスに騙されていたんだ。あの日、君に似た誰かと男が抱き合っているのを見た……でも、あれは君じゃなかった。セリスが君に変装していたんだ」
「えっ……?」

 セリスが私に変装していたの?
 わざわざ私の悪い噂を流すために?

「僕も君も、セリスに騙されていたんだよ。僕たちは被害者だ」
「っ……!」

 言葉を失った。

 アベリオは必死の形相で私に詰め寄る。
 その表情は憂いに帯びている。

 もしセリスに騙されなければ、アベリオは今でも私を好いてくれていた?

 そんな思いが一瞬よぎったけれど、すぐに振り切った。

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