すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
 エリオスが私の右手をそっと包み込むように触れた。
 いまだ動きの鈍い状態だけど、ほんの少しずつでも回復傾向にあるのが救いだった。

 それに、実は私はこの右手を愛おしいと思うようになっている。
 それはエリオスがとても優しく慈しむように触れてくれるからだ。
 
 ふと見上げると、エリオスがまっすぐ私を見つめていた。
 こうして目線が合うのはまだ慣れなくて、私はすぐに目をそらしてしまった。

「そんなにじっと、見ないで……」
「なぜ? せっかく君の顔が見えるようになったんだ。こうして、ずっと見ていたい」
「……恥ずかしいわ」

 そう言っても、彼は目をそらさない。
 見えなかった分の時間を取り戻すかのように、彼はいつも私を見ている。

 食事のときも、語り合っているときも、こうしてとなりで寄り添っているときも。

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