すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「レイラ」

 エリオスは私を見つめたまま優しく名前を呼んだ。
 それがとても甘くて、胸の奥が震えた。

 呼びかけられたら応えないわけにもいかず、私はゆっくりと視線を上げた。
 彼と目が合った瞬間、顔が燃えるほど熱くなった。

 彼はそれ以上何も言わずに、ただ私に顔を近づけてきた。
 私はそっと目を閉じて、それを受け入れようとしたけれど――

 彼の動きは止まった。

「……まるで、スヴェンに監視されているみたいだ」

 そんなことを言われて、私はそっと目を開けた。
 そうしたら、エリオスは真っ赤な顔で俯いていた。

 スヴェンの肖像画のほうへ目を向けると、ちょうど月明かりが彼の顔の部分に当たり、じっと私たちを見つめているようだった。
 私も急に恥ずかしくなって、思わずふふっと笑った。

「じゃあお部屋に戻りましょうか。ここだとお父様に怒られてしまいそうだわ」

 私が冗談めかしてそう言うと、エリオスも苦笑した。

「本当にそうだよ。きっと彼は少し怒っている。娘に何をしているんだってね」

 その言葉に、胸の奥が熱く、そして切なくなった。
 いろんな感情が渦巻いている。けれど、そのほとんどが幸福に満たされている。

 私とエリオスはゆっくりと立ち上がり、スヴェンの絵に向かってふたりで深く頭を下げた。

 絵の中のスヴェンは、相変わらず真顔のままだ。
 けれど、その口もとがほんの少しだけ、笑っているように見えた。

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