すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
 それから数年が経った。
 私はあれから父にも叔母にも会っていない。

 噂によると、父のスレイド伯爵は賭博にのめり込み、大金を失ったようだ。
 さらに手を出した投資もことごとく失敗し、かつて私の絵で荒稼ぎして得た収入もなくしてしまったという。
 伯爵家の財産は底をつき、領民や使用人たちも次々と去っていった。

 失墜を挽回しようと試みたようだけど、彼はいくつもの家に助けを求めたがすでに信用は地に落ち、誰も手を差し伸べてくれなかった。

 そんな中、妹であるセリスの母と金銭をめぐって争いが起こる。
 かつては互いに利用し合っていた兄妹の関係も、次第に険悪さを増していった。
 さらに娘のセリスが罪を犯したことで、叔母は社交界からも冷たく見放される。
 鬱積した怒りの矛先は、やがて兄であるスレイド伯爵へと向かった。

 ふたりの仲は修復不能となり、罵り合いは暴力に変わった。
 やがて、どちらが先に手を下すとも知れない殺し合いのような醜い争いを繰り返すようになる。

 スレイド伯爵家は没落し、居場所を失って闇の世界へと身を投じる。
 その後、犯罪者集団の中で姿を見かけたという噂を最後に、彼の行方を知る者はいなかった。

 一方、叔母は幾度も男を騙して金を巻き上げていたようだけど、それがやがて自らの破滅を招いた。
 暗い地下室で彼女の遺体が発見されたのは、死後数日が経った頃のことだと風の噂で耳にした。


 あまりに凄惨な結末に、私は複雑な胸中だった。
 けれど、同情するような気持ちにはなれなかった。

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