すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
 そしてノルディーン公爵家では――

 春の風が吹き抜ける午後の庭園で、私とエリオスは並んでベンチに腰かけ、穏やかに語り合っていた。

 エリオスは視力を取り戻した代わりに、人の心や気配を感じとることができなくなったという。
 そのことを、少しだけ名残惜しそうに話した。

「以前は、君が屋敷のどこにいるのかも、気配で悟ることができた。けれど今は、それができない」
「それが普通のことなのよ。みんな、そうやって暮らしているの」
「近づいてくる人が、善意を持っているのか悪意を抱いているのかも、今では見極めるのが難しいんだ」
「その目で見て、話して、感じとっていくの。みんなそうやって生きているわ」
「ああ、そうだな」

 エリオスは納得するように微笑んだ。

 そのとき、使用人に手を引かれた小さな男の子が、嬉しそうに駆けてきた。
 エリオスはとっさに立ち上がり、彼を抱き上げる。
 黒髪にトパーズの瞳を持つエリオスにそっくりな男の子だ。
 彼が満面の笑みで私に声をかけてきた。

「ねえ、お母さま。おうまさんの絵をかいて!」
「ふふ、いいわよ。じゃあ、お部屋に戻ろうか」
「うん!」

 エリオスが彼を抱きかかえ、私はそのとなりに寄り添う。
 3人で絵の話をしながら、春の光に包まれた庭園をゆっくりと歩いて戻った。

 色とりどりの花々が咲き誇り、やわらかい風が吹き抜けていく。

 私の右手は、息子の絵を描けるほどに、快復していた――

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