あやかし×コーデ
6、飛んでます?
* * *
樹が座敷わらしちゃんを連れて店に来る日が来た。
私はカウンターの席で、ひたすら、二人が来るのを待っている。
百合子おばあちゃんは樹が来る時間に限って寝ているから、まだお互い顔を合わせてはいない。
でも、私から百合子おばあちゃんには事情を話していて、座敷わらしちゃんの件でも手を貸してもらった。
――バササッ。
来た。
ガラス戸の向こうにシルエットが見えたのを確認して、私は紙袋を持って立ち上がった。
時は夕刻。茜空。
戸が開くと、夕焼け色がさしこんで、室内が赤く染まる。
「いらっしゃいませ」
樹と座敷わらしちゃんが店に足を踏み入れた。
「来たぞ、咲」
「さきー、久しぶり!」
会うのはこれで二度目だけど、座敷わらしちゃんはなついてくれたみたいで、私にぎゅっとしがみついてきた。
「座敷わらしちゃんに似合うようなコーデ、考えてみたよ。気に入ってくれると嬉しいけど」
というわけで、着替えてもらう。樹には後ろを向いてもらった。
一応、サイズは前回の来店時に測らせてもらっている。
それにしても不思議だよねー。妖怪の採寸をした経験のある人って、世の中にどれだけいるんだろう……。
私のコーデ案を百合子おばあちゃんに伝えて、座敷わらしちゃん用に洋服を作ったのだった。
「……はい、これでよし、と。座敷わらしちゃん、鏡見てもらっていいかな? 樹もこっち向いていいよ」
座敷わらしちゃんが走って鏡の前に立ち、樹も振り向く。
鏡には、可愛らしい、そしてどことなく不思議な雰囲気の女の子が映っていた。
「ただ、普通の服を着るんじゃなんか違うなって思ったんだよね。たぶん、座敷わらしちゃんもそうだったんだと思う」
白いワンピースに、腰には赤い帯のような布を、ベルト代わりにつけている。
重い印象のおかっぱ頭は、サイドをピンでとめて少しアレンジ。
何より目をひくのは、頭についている、赤いリボンのヘアアクセサリーだ。
うん。思った通り、……とても似合っている。
「きっと、一緒に遊んだ子たちは、座敷わらしちゃんのことはっきりとは覚えていないんでしょう? でも、記憶のどこかに残るんじゃないかって考えたの。だから印象的なアイテムを取り入れた方がいいかなって、リボンを選んだんだ」
赤いちゃんちゃんこの代わりに、赤いリボン。
大きくつぶらな瞳に、よく似合う。
でもそれは、単純に「可愛い」と思わせるだけのものじゃなくて。
どこか――不気味だった。
あの子はだれだったんだろう。一緒に遊んだ子たちがおぼろげな記憶をたどる時。このリボンの赤色を、ぼんやりと思い出すように。
ウキウキするような赤ではなくて、ぞっとするような赤色を選んでみた。
「……ど、どう、かな……」
無言で鏡に見入る座敷わらしちゃんに、私は声をかけてみた。
自分では気に入っているコーデだけど、本人が気に入ってくれるかどうか。
「樹。どう思う?」
鏡から目をそらさずに座敷わらしちゃんが問いかけた。
「似合う」
と樹はきっぱり言う。
「現代的だが、あやしさも失っていない。ただの少女ではなく、お前を見たものの思い出の中に、しっかりと刻まれるだろう」
「……うん」
座敷わらしちゃんはようやく鏡から目を離すと、こちらに、にかっと笑顔を見せた。
「この『こーで』は好きなの! みんなと遊んで来ようかな。ありがとう、咲」
すると、座敷わらしちゃんの体が、すーっと透き通っていく。
「えっ、ええっ? 座敷わらしちゃん、どうしたの?」
慌てているのは私だけで、座敷わらしちゃんは笑顔のまま消えてしまうし、樹もまるでそれが当たり前のことみたいに涼しい顔だ。
「樹! 消えちゃったよ!」
「あいつが言ったことを聞いてなかったのか? 遊びに出かけただけだ。どんな具合か、俺たちも見に行こう」
うわっ。私もあんな風に消えなくちゃならないわけ?
「やだやだ怖い! 私、消えたくない!」
「消えて移動する術を俺は使わない。いいから黙ってこっちに来い」
「あーでも私、店番まかされてるし!」
頑なに行くのを拒んでいたところ、このタイミングで百合子おばあちゃんが奥から顔をのぞかせた。
「あら、あなたが樹」
友達の孫でも見た時みたいに、目を細める百合子おばあちゃん。
樹は軽く頭を下げた。
「咲を借りてもいいか。すぐ返す」
借りるだの返すだの、私は物か! って怒ってやってよおばあちゃん! 可愛いひ孫が物のように扱われてますよ!
「いいわよ。気をつけて行ってらっしゃいね」
おばあちゃーん!!
樹は私の腕をつかむと、店の外に連れ出してしまった。
これからどこに連れていかれるんだろう……っていう不安もあるけど、こいつ、私の話全く聞いてくれないよね。なんかムカついてきたぞ。
そうだ、文句を言おう。きっぱり言ってやろう。
「あのねぇ樹。あんたって、私がどうしたいかってこと聞いてみようって気持ちは……」
「しっかりつかまってろよ。あまり動くな。落ちるから」
「へ?」
いきなり抱き寄せられて、言葉を失った。
次の瞬間、足が地面から離れてからは、いよいよ絶句、だったけど。
もしかしなくても私――飛んでます?
バサッバサッと風を切る羽の音。
経験したことのない浮遊感と、頬をなでる風。
そっと下を見てみれば、流れるように過ぎ去る、住み慣れた町の景色――。
「いやぁっ! やっぱ飛んでる! 無理なんだけど! なんで飛ぶの! 聞いてないよ!」
「静かにしろ。もう着く」
私もとにかく怖くって、必死に樹にしがみついた。
ジェットコースターなんかよりも、もっとこころもとなくて、油断して落ちたりしたら死んじゃいそうだけど、なぜかそこまでの不安はなかった。
飛ぶスピードは尋常じゃない速さだったのに、樹がしっかりつかんでくれているせいか、落ちる気がしなかったからだ。
ありがとう、樹……。
とはならない。
何してくれてんの樹! これが私の本音だ。
どれだけ優しく運ばれたって、ときめかないよ! 事前に確認をとるか、せめて説明して!
口をぱくぱくさせながら、まずどの文句から耳のそばでわめいてやろうかと悩んでいたところ、あっさりと目的地に到着してしまった。
そこは私の通っていた小学校の校庭で、私と樹が着陸したのは校庭の隅の、木の近くだ。
「……今、空を飛んでたのを見られたら大騒ぎになるんじゃない?」
「結界を張っていたから心配ない。それに、妖怪の術を目にできる人間はそもそも現代では少ないからな」
樹が校庭を指さした。
そこで遊んでいるのは、六人の子供たち。
その中には、赤いリボンを頭につけた女の子もいた。