あやかし×コーデ

7、話を聞け


 * * *

 かごめかごめ
 かごの中の鳥は
 いついつ出会う
 夜明けの晩に
 鶴と亀がすべった
 後ろの正面だあれ

 木下大輝はみんなと手をつないで、ぐるぐる回っていた。中心でうずくまり、手で目をふさいでいるのは、リボンをつけた女の子。
 かごめかごめ、という遊びは、このリボンの女の子から教えてもらった。

 真っ赤な真っ赤なリボンが、可愛い。
 大輝はこの子が大好きだ。ずっと前から知ってるし、いつもみんなで遊んでいる。

 ――くすくす。くすくす。
 リボンの女の子が、楽しそうに笑っている。大輝も笑う。みんなも笑う。

 ――あっはっは、楽しいね。ずっとこのまま遊んでいたいね。
 ――そうね。くすくす。くすくす。

 いつもより夕焼け空は真っ赤に染まって、でも女の子のリボンの方がもっと赤い。
 大輝はリボンに目を奪われていた。

「大輝ー、いつまで遊んでるのよ」

 声がした方を振り返ると、ママが腰に手をあてて、怒ったように立っている。
 帰ってくるのが遅いから、ママが車で迎えにきたみたいだった。
 もうそんな時間なんだ。残念だなぁ。

「ほうら、みんな帰りなさいね。ユウキくん、レンくん、ヒナちゃん、アカリちゃん……」

 ママは大輝たちを一人ずつ数えながら、首をかしげている。

「ダイキ、ユウキくん、レンくん、ヒナちゃん、アカリちゃん……?」

 ママは眉間に、ぎゅっとしわを寄せていた。

「いつものお友達のはずなのに、一人多いわ。でも、だれが多いんだかわからないわね」

 ママってば、おかしなこと言ってる。
 大輝たちは顔を見合わせて、くすくす笑った。誰も多くなんてないし、いつものお友達だよ。ねえ? って笑うと、みんなも面白そうに笑う。
 とにかくもう帰る時間だからと、みんなバイバイって、手を振って離れた。

 ――くすくす。くすくす。
 ――バイバイ。また遊ぼう……。

 ママに手を引かれながら振り向くと、リボンの女の子が、にんまりしながら大輝の方を見つめていた。
 ふっと姿が揺らいで、女の子の格好が変わる。おかっぱ頭に、赤いちゃんちゃんこ。

「ほら大輝ってば、前見て歩きなさい」

 ぐっと手を引かれて前を向いた瞬間、大輝は女の子のことをきれいさっぱり忘れてしまった。

「今日はだれと遊んでいたの?」
「ユウキくん、レンくん、ヒナちゃん、アカリちゃん、僕の五人だよ」

 でも、目の奥には不思議な赤色が焼き付いていた。
 かごめかごめの歌と共に、夕焼けよりも真っ赤に燃える、あのリボンの赤色が――。

 * * *

「ああ、楽しかったの! 久々にたっぷり遊んだなぁ!」

 とことこと私たちの方に走ってもどってきた座敷わらしちゃんは、とても満足そうだった。

「では、引き続き木下家にはとどまるつもりだな」
「うん! 少なくとも三十年はいよう」

 おめでとう、木下さん。三十年は木下家の幸せが続くみたいだよ。
 私のおかげだよ、木下さん。ねえ、私のおかげだからね、あんたがコラボ限定品を買えるのも!
 と両肩つかんで言ってやりたいけど、そこまで押しつけがましくないので、この事実は私の胸にそっとしまっておこう。

「ありがとう、咲。またな」

 すっかりご機嫌の座敷わらしちゃんは、別れのあいさつをすると再び透けていって、消えてしまった。
 いろいろ終わって、私は脱力する。両腕が、だらんと下がった。

「いいことしたんだ、よね? 私。座敷わらしちゃんは遊べて満足したんだし、木下家は没落の危機を免れたんだし」
「ああ、そうだな」

 ただし、納得はいってないんだよね。どうも樹に振り回されてる気がするんだよ。
 そうじゃない? 私がやるともやらないとも言わないのに、問題持ちこんで解決するようにし向けたんだからさ。

「あのねぇ、樹」

 ここでガツンと言わなきゃいつ言うの。絶対文句ぶちまけてやるんだから。
 と横を向けば、美少年の顔がすぐそばにあって、私はひるんだ。

 なんでこっち向いてんの!
 いや、名前呼んだの私だけど。

「あの、あの、あのね。私は、あんたに言いたいことが山ほど……」
「見事だった」
「へ」
「お前には才能がある。問題を必ず解決してくれると信じていた。ありがとう。助かった」
「…………」

 出てくるはずだった文句の言葉が、ふわーっと消えてなくなっちゃった。
 態度がでかいはずの樹が真顔で、こんなに素直にお礼を言ってくるんだもの。
 怒りが散り散りになっちゃったよ。

「お前は最高だ」

 ……褒められた?
 顔が熱いのは、気のせいだよね。
 そうだ。私、こんなことで照れたりしないよ。
 我知らず、顔をしかめた。

「どうした。褒めたのにどうして怒る」
「別に、怒ってなんかないよ……」

 恥ずかしくてうつむいてしまう。
 私のこと褒めてくれる人って、家族以外ではあまりいなかったから。どんな表情をしていいかわからないんだもん。
 でもこんなことくらいで、樹を許したりしないんだからね。もう無茶ブリには応えないぞ。

「俺は飛んで帰るが、お前はどうする?」
「私はいいよ、歩いて帰るから」

 あんなドキドキすること、もう身がもたない。

「そうか。では、俺は帰る。また服装や見た目について悩んでいるあやかしがいたら、連れて来るからな」
「はいはい……って、え? 何て?」

 うっかり返事をしてしまったところで、樹は黒い羽を生やして空へと飛び立つ。

「待った樹! 私、相談乗るって言ってないよ! こら! 話を聞け話をーーーーーーっ!」

 私の叫びはむなしく響く。それに答えるのは「カア、カア」というカラスの声だけだった……。
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