Excessive love.
「何? 姫野さん」

「取引先の上田商事さんから今日中に資料を送ってほしいって言われていたのを忘れてて~」


 わざとだ、と一瞬で理解した。

 定時になった瞬間に声をかけてきたのも、私が今日ひとりであることを確信しているから、惨めな思いをさせたいのだと思う。

 そもそも、請求されている資料は事務側でも完結できる内容だ。忘れていた本人が、責任を持って少し残業すれば済むだけの話。

 申し訳なさそうな演技の裏で、彼女は私を嘲笑っている。

 浮気されて、居場所を失い、仕事しか縋るものがない惨めな先輩。それを確認して、優越感に浸りたいのだ。

 だけど、この女の言いなりになるほど、私は弱り切っていない。


「そっか。でもこれ、事務の仕事だよね?」

「え?」

「資料請求でしょ。取引に必要な書類とかじゃないのは事務でも把握しているはずだし、今の上田商事さんとの取引状況は共有に乗せてるんだから、それ見たら分かるはずだよ。伝え忘れた姫野さんが残って送ったら?」

「で、でも、私この後予定があって…」

「あら、奇遇ね。私も予定あるし、その予定は隆太でしょ? 彼なら待ってくれるわよ。優しいから」



 笑みを浮かべて言い切ると、姫野さんの顔から余裕が消え、わずかに口角が引き攣った。

 今更、元恋人としての未練があるわけじゃないけれど、彼女が何に苛立ち、何を言えばプライドが傷つくかは、同じ女として考えればわかる。

 自分でも可愛げがないやり方だと思うし、彼女と違い、女としての立ち回りが下手なのも自覚している。

 だけど、このくらいの仕返し、今の私には許されていいはずだ。
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