Excessive love.
「どうかした? 姫野と新田」


 横からかけられた声に視線を向けると、そこには朝倉さんが立っていた。

 姫野さんの表情が、瞬時に困らされている可哀想な私へと切り替わる。その魂胆を読んだ私は、彼女が口を開く前に、先に口を開いて封じた。


「いえ、姫野さんから取引先の共有があったので聞いていただけです。じゃ、予定あるかもしれないけれどお願いね」

「…はい」

「そっか、新田。この後ちょっと空いてる?」

「はい」


 逃げ道を塞がれた姫野さんは、苦虫を噛み潰したような顔で頷くしかない。

 私がオフィスを出ようとすると、デスクにいた及川くんが、口パクで『気にすんな』と送ってくれた。朝倉さんをこのタイミングで呼んでくれたのは、きっと彼だ。

 自分だってそれどころじゃないはずなのに、こちらを気遣ってくれた。私は感謝を込めて一度だけ深く頷き、朝倉さんの後を追った。

 廊下の隅、人の通りが少ない場所で朝倉さんが足を止める。


「ごめん。余計なお世話かと思っていたんだけど…」

「いえ、ありがとうございます」

「まあ、さっきの姫野とのこともだけど、昼間の事も。家事やってくれとか言われたら気が重くなるだろうなって反省してたんだ」

「あ、いやいや! そこはむしろ家事して置いて頂けるのであればありがたいのですが…、ただ少なからず迷惑を掛けるのが申し訳が無くて」

「そんなの考えなくて良いよ。まずはシェアハウスくらいの気軽さで考えるのはどうかな?自分の家に鍵付きの部屋があるから、その部屋を新田に渡せるし…」


 こまで条件を提示されてしまうと、無碍に断る理由がなくなっていく。

 鍵付きの個室があるなら、プライバシーの懸念も解消される。何より、どん底にいた私にこうして何度も手を差し伸べてくれる人の厚意を、受け取りたいと思った。
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