Excessive love.
「この社員旅行で楽しみにしてる事ありますか?」

「うーん、温泉が本当に良いみたいだから、それだけは楽しみ…だな。上司の身で言っていいのか分からないから内緒にしていてほしいんだけど、本当はあまり社員旅行好きじゃない」


 声を潜め、私の耳元でまさかの白状をした朝倉さんに、思わず吹き出してしまった。

 確かに、上層部の会議で決まった行事に参加を促す立場として「楽しみじゃない」なんて本音は口が裂けても周りには言えない。

 だけど、私にだけは隠さず正直に打ち明けてくれた。その事実が、私と彼の距離が他の誰よりも近いのだと教えてくれているようで、胸の奥が少しだけ温かくなった。


「秘密にしておきますね」


 私がそう返すと、朝倉さんも少し笑って頷いた。

 普段から物腰の柔らかい人で、その笑顔は人を安心させるものだと思っていたけれど、こんなにお茶目な表情もするのかと、また新たな一面に心奪われた。

 一緒に暮らし始めてからの朝倉さんは、意外な一面の連続だった。

 時折冗談を言ったり、やると決めたら頑固だったり、料理や家事が壊滅的に苦手だったり、バラエティー番組を見て、声を上げて楽しそうに笑うことだってある。

 会社での彼は、決して笑わないわけではないけれど、心から何かを楽しんで笑う姿は見られなかった。

 いつも冷静で、完璧で、頼りになる背中しか見せていなかった。だからこそ、家で見せる完璧じゃない、気の抜けた朝倉さんを見るたびに、どうしようもなく鼓動が速くなることがあった。

 もし、今までの手痛い恋愛経験がなかったら、これが恋だと言い張っていたのかもしれない。

 けれど、散々傷つけられてボロボロになった今の私は、また誰かを好きになることに臆病で、心に固い蓋をしてしまっていた。
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