離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「今日、昼間のデートが楽しかったので、あなたとやり直そうかという思いが何度も頭をよぎりました。……でも、もう迷いません。こんなに傲慢な人とは、もう夫婦でいたくない」
「悠花……」

 珀人さんの目が、切なげに細められて揺れる。

 彼を傷つけたのがわかったけれど、もうどうにもならない。

「寝室の棚……私の通帳や印鑑がしまってある引き出しに、離婚届があります。時間のある時に書いておいてください」

 最後にそれだけ言い残し、呆然と立ち尽くす珀人さんを残してスイートルームを出る。

 エレベーターに乗ったところで鼻の奥がツンとして、思わず天井を見上げると、潤んだ目を瞬いた。

 私はとうとう、初恋を手放さなきゃいけないみたいだ。

 それでもずいぶん頑張った方だと思う。あんなに口下手でわかりにくい人と、一年以上結婚生活を続けられる相手なんて、私くらいしかいないよ。

 なんとか開き直る要素を探して、涙を引っ込める。これから会社に行って仕事をするのだから、メソメソしている場合じゃない。


 土曜夜のZアドバンスは、ひっそりと静まり返っていた。

 エントランスには夜間警備の男性が常駐しているので、スマホでデジタルの社員証を示し、中に入れてもらう。

 エレベーターに乗って開発部のある五階で降り、廊下を歩いているとオフィスに明かりが点いているのが見えた。

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