離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「ごめんね、財前さんだけ呼び出したみたいになっちゃって」
「い、いえ……。土曜の夜ですから、みんな忙しいですよね」
この状況は、あくまで偶然。自分に言い聞かせるようにそう言ったものの、真木さんがゆっくり歩み寄ってくるにつれ、胸がざわめく。
前にも一度、彼に触れられて不快感を覚えたことがあった。あの時はそこまで深く考えなかったけれど、今も似たような感覚が私の全身に走っている。
そして同時に、真木さんという人物について、珀人さんからしつこいほどに忠告されたシーンが頭の中をぐるぐると回っていた。
「財前さんも、ご主人と一緒だったんじゃない?」
「え……?」
「だって、なんだかいつもと雰囲気が違う。もしかしてデート中だった?」
隣のデスクに手を突いた彼が、小首をかしげて私の顔を覗く。
あんなに切羽詰まった仕事のメールを送ってきた人と同一人物とは思えない。
こんな時間に呼び出したのは、一刻も早く仕事の対応をチームで考えたかったからじゃないの?
「いえ、別にそういうわけじゃ……」
「まぁ、仮にデートだったとしても、きみにとっては苦痛な時間だよね。離婚届を用意するくらい、夫婦関係に悩んでいるんだから」
「あの、真木さん……新作のリリースを早めるんですよね。その件で呼び出されたと思いますので、さっそくスケジュールの組み直しを――」
必死で話を仕事の方へ戻そうとしたその時。廊下の方から誰かの足音が聞こえて、真木さんとともに廊下の方を向いた。