離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
モヤモヤしたものを抱えつつも、仕事に入ってしまえば余計なことを考えている暇はなかった。
真木さんは新作をより充実したアプリにするために各方面に働きかけてくれたし、なにより私たち制作側の意見を尊重してくれた。
もしかしたら、以前葵ちゃんが言っていたように少しプライベートにだらしがない面もあるのかもしれないけれど、仕事の上では必要な人だ。
今度からは彼とふたりきりにならないよう注意して、プライベートの話題はできるだけ避けるようにしよう。
彼の素行については珀人さんに幾度も忠告されていた。にもかかわらず、先ほどのように隙を見せてしまったのは私の落ち度だ。今さら弱音を吐くわけにもいかない。
二時間ほど仕事をした後、真木さんは自分だけもう少し残ると言って、私と葵ちゃんを先に帰した。
その時は当然上司の顔をしており、ふたりきりの時に見せたあの一面はなんだったのかと、狐につままれたような気分になる。
とはいえ葵ちゃんに相談して変な心配をかけてしまうのも気が引けて、帰りに相乗りしたタクシーでも、関係のない話しかできなかった。
自宅に戻ると、当たり前だが静かだった。
珀人さんは今頃、ホテルでひとり眠っているのだろうか……。
あのタイミングで会社へ行こうと決めたのは自分だし、後悔はしていない。
それでも、真木さんの人柄については珀人さんの言い分にも一理ありそうだと知った今、彼にどこか申し訳ない気持ちが生まれていた。
珀人さんは、もしかしたら本気で私のことを心配してくれていていただけかもしれない。
だからといって謝るのも変だし、珀人さんのやり方が横暴だったのも嘘じゃない。
気持ちの落としどころが見つからないまま、シャワーを済ませ、早々にベッドに入って目を閉じる。
身の回りで一気に色々なことが起こりすぎたせいかとても体がだるくて、私はあっという間に眠りに落ちた。