離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
思い出の母校を訪れたことはともかく、スイートルームまで予約したのはやりすぎだっただろうか。
いや、真木に対して必要以上に嫉妬して、仕事の仕方についてまで口を出したことの方が、彼女は我慢ならなそうだった。
『寝室の棚……私の通帳や印鑑が閉まってある引き出しに、離婚届があります。時間のある時に書いておいてください』
次に登場した悠花は、ホテルで別れた時の彼女だった。完全に俺という人間に落胆していた、あの目……。
待ってくれと引き留めたいのに、その冷たい視線に体の自由を奪われてしまったかのごとく、俺はその場から一歩も動けなかった。
「悠花……行かないで、くれ……」
自分が発した悲痛な声で、目が覚める。
ソファの上でガバッと身を起こすと、カーテンの向こうが明るくなっていた。
「……朝、か」
夢見が悪かったせいか、休めた気はあまりしない。
とりあえずソファから下りてキッチンで水を飲みながら、部屋の様子をぼんやり眺める。悠花がこの部屋へ来た形跡はなさそうだ。
彼女は俺に振り回された後で仕事までしてきたのだから、疲れているのは当然。今日は日曜で休みだしゆっくり眠らせてやろう……。
彼女を置いて出かけるのも気が引けて、軽く朝食をとってその片付けと洗濯を済ませた後は、リビングでパソコンを広げて仕事をする。
画面上の数字を追いかけている間はプライベートのことを思い出さずに済むため、少しは気晴らしになった。