離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
体がつらいのだろう。悠花は心細そうに眉を下げ、瞳を潤ませている。
この先離婚することになるかどうかなど、今は関係ない。早くいつもの元気な彼女に戻ってほしい。
「じゃあ……お水だけお願いできますか?」
「なにか食べなくていいのか? 昨夜バーで少し食べた後、なにも腹に入れていないんじゃないのか?」
「そうなんですけど……食欲が、全然なくて」
胃腸にくる風邪なのだろうか。本当なら栄養を取らせたいところだが、もう少し症状が治まるまで待った方がいいのかもしれない。
「わかった。とりあえず水を持ってくるよ」
「珀人さん……ごめんなさい」
悠花としては、きっぱりと離婚の意思を告げた夫に自分の看病をさせることに負い目があるのかもしれない。さっきも『すみません』と言われたばかりなのに、彼女はまた謝罪の言葉を口にする。
「謝らなくていいと言ったばかりだろう。きみはゆっくり休んでいて」
離婚まで残された日々は少ないのだろうと思うと、こんな風に彼女に尽くせる機会も大切にしなくてはと思う。
たとえ悠花の気持ちが変わることはなくても、最後の最後まで、彼女の夫でありたい。