離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
会社の人の前で、珀人さんを悪く言うのはご法度。それは結婚前から両親に口酸っぱく忠告されてきたし、彼の立場を考えれば当然だ。
たとえ現在の夫婦関係がぎくしゃくしていたとしても、私はよき妻を装っておくのがベスト。彼の名誉を損なったら財前の名に傷をつけることになるからだ。
「すごいな、さすがは日暮社長の娘さんだ。逞しい」
「とんでもないです」
日暮というのは、私の旧姓。日暮社長というのは父のことだ。
無口な所は少し珀人さんと重なる部分があるが、見た目はお腹周りが少々だらしないごく普通の中年男性である。
「……でも、なんだか元気のない顔をしてる。結婚生活の中で、自分でも気づいていない我慢とかあるんじゃない?」
「えっ?」
唐突に指摘されてどきりとする。普段から態度に顔に出しているつもりはないのに、どうして珀人さんとの結婚生活に問題があることを見抜かれているんだろう……。
「そ、そんなことないですよ。夫は忙しい人ですが家では優しいので」
自分で言っていてむなしくなる。
家での珀人さんは、優しいどころか愛想の欠片もないのだ。
「そっか。俺の思い違いだったのかもしれないね。でも、今後もなにか悩んだら相談に乗るから、気軽に頼って」
「お心遣いをありがとうございます」
あまり深くは突っ込まれなかったのでホッとした。軽く頭を下げると、真木さんは照れくさそうに鼻の頭をかく。