離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「私……食べたいです。ちょうどお腹が空いたと思っていたので」
「それならよかった。ちょっと待て、食べさせてやるから椅子を持ってくる」
「えっ? じ、自分で食べられますけど……」

 遠慮する悠花に構わず、俺はデスクのそばにある椅子を抱え、ベッドの脇に置く。

 そこに腰を下ろして茶碗を手に持つと、レンゲでお粥をひと口すくって悠花の口もとへ持っていく。

「量が少ないから、もう熱くはないはずだ。ほら、口を開けて」
「……いただきます」

 普段より少し血色の悪い唇を小さく開いた彼女が、白粥を口に入れる。ゆっくり口を動かして咀嚼し、おそるおそると言った感じに飲み込んだ。

 まずくはないはずだが、初めて振る舞った手料理への反応を待つのはかなり緊張した。

「美味しい」

 悠花がふっと、口元をほころばせてそう言った。それからはにかむように笑って、遠慮がちに俺を見る。

「もっと食べさせてもらえますか?」
「……もちろん! お代わりなら鍋にもまだたくさんある」

 思わず嬉しくなって、力んだ声が出てしまった。悠花が慌てて顔の前で手のひらを振る。

「すみません、そんなにたくさんは食べられません……」
「あ、ああ……そうだよな。きみは病人だった。すまない」

 悠花はクスッと笑って、場違いに浮かれた俺を許すように微笑んでくれる。それから茶碗一杯のお粥を少しずつ食べ進め、とうとう完食してくれた。

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