離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

 食事をした彼女は少し回復し、立ち上がれるようにもなった。

 寝てばかりいたのでスッキリしたいと彼女がシャワーを浴びにいったので、俺は食器を片付けて再びリビングでの仕事に戻る。

 膝の上にノートパソコンを置き、キーボードを叩くこと数十分。

 風呂上がりの悠花がリビングにやってきて、俺の隣にストンと腰を下ろした。

 大丈夫か、と俺が尋ねる前に、悠花の頭がこてんと俺の腕にもたれかかってくる。まだ少し濡れた髪から、花のような甘い香りがした。

 彼女からこんな風に甘えられたことがなかったので、顔には出さないが胸が騒がしくなる。しかし、ただ単にシャワーで体力を消耗しただけかもしれない。

「またつらくなってきたのか?」
「いえ。……すみません、仕事の邪魔ですよね」

 悠花はそう言ってスッと俺から離れる。その横顔がどこか寂しげに見えたので、俺はパタンとノートパソコンを閉じてテーブルに置いて今度は自分から悠花の肩を抱き、ぐいとその体を引き寄せる。

 彼女は抵抗することなく、俺に身を預けてくれた。

「……ごめんなさい」
「うん? なにがだ?」
「離婚すると言っておきながら、こんな風にあなたに甘えるなんて……言動が一致していないこと、自分でもわかっています。フラフラしてばかりで、本当にごめんなさい」

 腕の中で、静かに悠花が本音を吐き出してくれる。俺は彼女の頭に手を置いて、そっと撫でる。

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