離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
悠花はそう言って、俺の反応を窺うように見つめてくる。
こんな時、今までの俺なら、休めと強要したかもしれない。
彼女はひとりの立派な社会人の女性なのだから、体調不良も、そして上司が信頼できる人間であるかどうかも、自分で判断できるのに……俺はどこか、保護者のような気持ちでいたのだ。
悠花を自分の目の届く安全な場所に置いておき、すべての危険から遠ざけたいと思っていた。
しかし、それが過干渉であると、今ではようやく理解できた。悠花が本気で怒ってそれを訴えてくれたから、気づくことができた。
「わかった。しかし、くれぐれも無理をするなよ」
「……いいんですか?」
悠花はやはり、出勤を反対されると思っていたようだ。意外そうに目を丸くして、俺を見つめる。
「ああ。確か、締切が早まったんだったよな。間に合うように応援してる」
「珀人さん……」
感極まったように声を震わせる彼女を見ていて、最初からこうして素直に応援してやればよかったのだと、今さらのように後悔する。
「ありがとうございます。明日力が出せるように、しっかり休みますね」
「ああ。おやすみ」
「おやすみなさい」
悠花の笑顔を見送ると、久しぶりに心が穏やかになっていることに気づく。ささいなやり取りでこんなにも幸せになれるのに、一年もの長い間それを怠ってきた自分は本当に馬鹿だった。
彼女の気持ちはまだ揺れていて、おそらく離婚の選択肢も消えたわけではないだろう。
それでも俺は、まだあきらめない。悠花を失うその日まで、やれることはすべてやるのだ。