離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「……わかった。それでは神山先生、妻をよろしくお願いいたします」
「承知しました」
先生と看護師に一礼し、寝室を出る。
悠花には医療のプロがついているとわかっていてもその場を離れるのが心配で、俺は廊下の壁に背を預けて立ったまま、再び入室を許されるのを待った。
五分ほど経った頃だろうか。看護師を伴い、神山先生が寝室から出てきた。俺はパッと背中を壁から離し、先生のもとへ歩み寄る。
「先生、悠花はどうなんですか?」
「どうぞ、中へ入って奥様のおそばへついていてあげてください。奥様のお体の状態については、ご本人が自分の口からお伝えしたいとのことですので、私たちはこれで失礼します」
奥歯にものが挟まったような言い方に戸惑っているうち、先生たちは廊下を引き返して玄関へ向かおうとする。しかし、すぐにハッとして彼らに駆け寄った。
「外までお送りします」
「いえいえ、結構ですよ。ご主人の仕事は、とにかく奥様を大切になさることです」
「は、はい」
結局、悠花の病名についてはひと言も言わずに、先生と看護師は俺の前から去ってしまう。
まさか、医者でも口にするのが憚られるほどの重病? 悠花を大切にしろと口酸っぱく言うのも、まさか彼女の命に危険が迫っているから……?