離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
段々と冷静さを取り戻す中で思い起こされるのは、悠花が初めて〝離婚〟のひと言を口にした、およそひと月前の行為。俺たちが体を重ねたのは、あの夜一度きりだ。
しかし、悠花の曖昧な言い方が少し気になる。
「かもしれない……というのはどういう意味だろうか」
「生理が遅れていたので、市販の検査薬を使ったら陽性だったというだけなんです。それでもかなり確率は高いと、先ほど神山先生には伺いましたが」
なるほど、だから俺を部屋から追い出したのか。なにも知らない俺がそばにいたら、妊娠について神山先生に質問したくても、それどころではなかっただろう。
……しかし、もう悠花ひとりに悩ませたくはない。
俺たちの子が、彼女の中で生きているかもしれないのだ。こうしている今も、懸命に。
「悠花」
「はい」
俺は彼女の手をギュッと握り直すと、その目を真っすぐに見つめて口を開いた。
「離婚届は捨てよう」
俺の中に、もはや別れるという選択肢はなかった。
彼女も、そして俺たちの子どもも決して離してなるものかと、自分でも驚くほどの強い感情が湧いている。
「今までは、きみの気持ちが戻ってきてくれるのを、いくら時間がかかっても待つつもりだった。でも、きみがこうして苦しい思いをしてまで俺の子を宿してくれているのに、悠長になんかしていられない。きみも子どもも必ず幸せにするから、どうか俺を夫として……そして父親として、認めてくれないか?」