離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
翌週に予約が取れた産婦人科には俺も同行するつもりでいたのだが、先日も看病で休んだばかりだからと悠花が遠慮するので、俺は後ろ髪を引かれながらも仕事へ行った。
社長室で四季から一日のスケジュールを聞かされた後、一度秘書課へ戻ろうとしていた彼女が、部屋を出る直前にデスクにいる俺を振り返る。
「そういえば、奥様……悠花さんのお加減はいかがですか?」
「ああ、おかげさまで落ち着いている」
妻の体調不良を理由に一度休んでいるので、気にしていたのだろう。
とはいえ妊娠の件を公表するにはまだ早すぎるので、簡単に答えるだけにとどめた。
「そう……夫が巨大企業のトップだと知っていて休ませるくらいだから、もっと重い病気なのかと思って心配していたの。大したことなさそうでよかった」
四季はそれだけ言うと微笑みを残して社長室を去ったが、彼女の言葉に棘があることには気づいていた。
彼女は自分が仕事の上で俺のパートナーであることを誇りに思うあまりなのか、それとも俺に対して個人的な好意があるのか……時々妻である悠花に対して嫌味のような発言をする。
当然聞いていて気持ちのいいものではなく、彼女の優秀な面が最近は時々曇って見える。
秘書課には他にも優秀な人間が揃っているので、担当を変えてもらってもいいのかもしれない。ぼんやりそんなことを思いながら、メールのチェックを進める。
少しして、デスク上の電話が鳴った。受話器を取ってみると、受付からだった。