離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「本日アポイントのないお客様なのですが……社長のお母様を名乗られているので、一度ご相談をと思いまして」
これまで一度も会いに来なかったあの人が、今さらなんの用だというのだろう。
しかし、自分の都合でふらっと現れるというのが、いかにもあの母親らしい。おそらく本人で間違いないだろう。
「わかった。秘書にここまで案内するよう伝えてくれ」
『かしこまりました』
両親の離婚には子どもの俺にはわからない夫婦の事情があったのだろうし、母からの愛情を感じられなかった幼少期を今さら嘆いてはいない。
しかし、母親の言葉に長年囚われていたせいで悠花との関係がこじれていたのは事実。久々に顔を合わせるといっても、嬉しさや懐かしさは感じなかった。
受付から連絡を受けた四季に連れられて社長室を訪れた母は、年齢こそ重ねたもののあまり容姿は変わっていなかった。
長い髪を丁寧に巻いてあり、ブランド物のスーツに身を包んでいる。
美人だとは思うが、過去の母親像による先入観のせいか〝恋多き女性〟というい印象がぬぐえない。
四季に席を外してもらった後応接用のソファに座った母は、室内のインテリアを落ち着きなく眺める。それからようやく俺を見た時には、なんだか誇らしそうに目を輝かせていた。