離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「頭を上げてくれ。別にもう恨んでないから」
「……そう。ありがとう」
「話はそれだけか?」
「ええ。……あ、ちょっと待って。あなた、Zアドバンス社長のご令嬢と政略結婚したって本当?」
「本当だったらなにか問題が?」
「そういうわけじゃないけど……。普通の恋愛結婚ができなかったのは私のせいなんじゃないかと心配で」
母にも一応、偏った恋愛観を俺に植え付けた自覚があるらしい。気まずそうにそう言って、俺に上目遣いを向ける。
恨んでないと言った直後だが、多少の文句をぶつけたくなって、俺はため息交じりに告げる。
「そうだな。かなりの悪影響があった」
「やっぱり……」
「しかし、彼女は俺よりずっと懐の深い人だ。不器用な俺のことも広い心で受け止めてくれているから、あなたが心配することは何もない」
初めて口論になったあの夜、悠花が本音を明かしてくれなければ、俺たち夫婦はもっと最悪な形で終わっていたと思う。
彼女は俺が母親の呪縛から逃れて感情をぶつけるチャンスと、生まれたままの姿で直接愛を伝える、あの切なくも尊い時間をくれた。
その結果、俺たちは宝物を授かることができた――。