離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
三十分だけ残業をして、珀人さんと暮らす一軒家に帰宅する。
会社からは地下鉄を乗り継いで二十分ほど。珀人さんは自分の車で通勤するほか、役員用の送迎車で移動することも多い。
彼に頼めば私もなにかしらの方法で送迎を手配をしてもらえるのだけれど、歩くのが好きなので毎日電車と徒歩で通勤している。
東京の街は流行や季節を敏感に察知してコロコロとその表情を変えるから、歩くたびに新しい発見があるし、アプリ開発の仕事にもいい刺激になる。
駅からおよそ七分歩いて、豪邸ばかりが並ぶ住宅街の一角に我が家に到着した。頑丈な金属の門扉を開き、敷地の中へ足を踏み入れる。
つい最近までマリーゴールドが主役だった花壇は、現在ダリヤが花盛りを迎えている。花壇の脇には甘い香りを放っている大きな金木犀の気があり、その奥に見える二階建ての建物が私たちの住居。
元々は珀人さんの父方の祖父母が暮らしていた百五十坪の豪邸を、結婚の際に譲り受けた。
義理の祖父母は足腰が弱って広い家では逆に不自由だからと、介護付きの有料老人ホームへと住まいを移したのだ。
経年劣化で傷んでいた箇所はリフォームしたけれど、瀟洒な洋館といった風情の外観はそのまま。敷地の端には車を三台置けるガレージもあり、珀人さんの所有する車がそれぞれ保管されている。