離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
珀人さんの祖父母が住んでいた頃は使用人を雇っていたうようだけれど、私たちは基本的に夫婦ふたりで暮らしている。
共働きとはいえ夫よりは時間に融通の利く私が家事を担当し、なにかが壊れた時や、庭の手入れをしてもらいたくなった時だけ、業者の人を呼んで対応してもらう。
私たちが越して来た時に庭のレイアウトを考えてくれたのは、珀人さんの友人の瀬戸山さん。彼もまた松苑学園の卒業生で、老舗花屋『瀬戸山園』の御曹司だ。確か現在の役職は専務だったと思う。
高校時代は珀人さんと人気を二分していたほど、瀬戸山さんも眉目秀麗。
それでいてふたりとも彼女がいた噂はきかなかったから、いっそ彼らが恋人同士なのでは……?なんて憶測も飛び交うほど、とにかく学園中の話題をさらうふたりだった。
瀬戸山さんの会社には結婚式の装花も担当してもらったし、私たちの新婚生活に文字通り花を添えてくれた恩人。
彼からの祝福の気持ちに応えるためにも、ふたりで幸せになろうと決めたはずだったのに――。
「ただいま」
私よりも一時間半ほど遅れて、夫の珀人さんが帰宅した。
ちょうど夕食の準備が整ったところだったので、微笑みながら彼に尋ねる。
「おかりなさい、珀人さん。ちょうどお夕食の準備ができたので、温かいうちに召し上がりますか?」
「……ああ」
彼はにこりともせずにそう言うと、バッグとジャケットを片付けるためにすぐに寝室へと引っ込んでしまった。