離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「財前さん、ちょっといい?」
真木さんのデスクに呼ばれたのは、ちょうど昼休みのこと。
私は食事らしい食事をとれないし、社員食堂や飲食店は色々な匂いが充満していて具合が悪くなりそうなので、オフィスに残って市販のレモンジュースを飲んでいた。
真木さんのデスクに近づいていく途中、こちらに背を向けた状態で真木さんと向かい合っている女性の姿が目に入る。
どこかで見覚えのある後ろ姿……。
そう思っていると、女性ひとつにまとめた長い髪を揺らして振り向いた。
その顔を見た瞬間、ぎくりとする。
なぜ、彼女がこの会社にいるの……?
「きみにお客さんだ」
「悠花さん、こんにちは。松苑祭以来かしら」
「鞠絵さん……こんにちは」
童顔な私とは違って大人の女性のオーラに満ち溢れている彼女は、いつものように眩しかった。高校時代も今も、珀人さんを支える立場にいる彼女には、憧れと少しのコンプレックスを抱いている。
「急にお訪ねしてごめんなさいね。社長のことで、どうしてもあなたにお話があって……」
「珀人さんの……?」
鞠絵さんの表情が少し深刻そうに見えて、胸がざわめく。
珀人さんの妻は私だけれど、会社での彼については鞠絵さんの方がよく知っている。そんな彼女がわざわざ会いに来たという事実に戸惑いを隠せない。