離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「ご自宅では疲れた顔を見せていないのかもしれませんが、会社で……とくに、私とふたりきりになると、最近よく弱音をこぼすんです。だからつい、私も会社での立場を忘れて励ましたりもしていますが、本来なら奥様である悠花さんが彼を支えるべきかと。私としても出過ぎた真似をしている自覚があるので、心苦しくて……」

 珀人さんが、鞠絵さんの前で弱音を……?

 家での彼を見る限りまさかと思うが、鞠絵さんとふたりの時、珀人さんがどんな顔をしているのか、私には知りようがない。

 高校の生徒会時代からパートナーであった彼女の前では、つい素顔が出てしまうということなの?

「それと……先日、社長のお母様が会社にお見えになって」
「お母様?」

 私たちの結婚話が本格的に進みだした頃には、彼の両親はすでに離婚していた。顔合わせや結納に立ち会ってくれたのも彼のお父様ひとりで、お母様とは一度も会ったことがない。

 珀人さんの口からもお母様の話は少しも出てこないので、あまり関係がよくないのだろうと勝手に想像していた。

 でも、会いに来たということは今でも交流があるのだろうか。

「あなた方は政略結婚だったでしょう? それがプレッシャーでつらいのだとお母様に告白されているのが、偶然聞こえてしまったんです。会社のトップとしての重圧に加えて、家庭でも気の休まる間もないと知ったら私、居てもたってもいられなくて」

 知らなかった。お母様が珀人さんの会社を訪れたことも、そんな悩みを打ち明けられるような関係性であることも。

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