離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「それで私のところへ……」
「ええ。秘書である前に、私は財前くんの友人です。彼が苦しんでいるのは見過ごせない。悠花さん、あなたにはもう少し社長夫人としての自覚をもっていただきたいわ。それができないのなら、社長を自由にしてあげてほしいの。……話というのはそれだけです」
彼女の勢いに圧倒されて何も言えないでいるうちに、鞠絵さんはスッと立ち上がって会議室を出ていく。
彼女の言うように、家での珀人さんは無理をして私に尽くしてくれているのだろうか。
私に対する愛がそうさせているのではなく、子どもができてしまった責任を取るために……? ううん、違うよね。
私に会社での鞠絵さんと珀人さんの関係がハッキリとは見えないのと同じで、彼女だって私たち夫婦が家でどんな時間を過ごしているのか知らない。
一生懸命にレモネードを作り、私がそれを飲んだだけで幸せそうに笑ってくれる珀人さんからは、夫として、父親としての義務感以上の優しさを感じる。
それが彼を疲れさせて仕事に支障が出てしまっているのだとしたら、夫婦で話し合って建設的な解決方法を見つけ出すべきだ。
鞠絵さんは『社長を自由にしてあげて』と言ったけれど、私は離婚届を破り捨てたあの日から、なにがあっても珀人さんと共に生きようと決心している。
今日の夜は接待、明日の午後から出張の彼とはすぐには時間が取れないかもしれないけれど、大きなすれ違いが生まれる前に、きちんと彼と話をしよう。