離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
【昼休みに体調を崩して、会社を早退しました。悪阻の症状だと思うので心配はいりません。出張、頑張ってください】
それだけ報告し、スマホをしまう。広い庭を歩くのが普段より苦痛で、玄関にたどり着くまでが果てしなく長いように感じられた。
ドアの鍵を開けてようやく建物の中に入ると、まっすぐに寝室へ向かって重たい体をベッドに横たえた。
懸命に取り組んでいた仕事がふいになった上、味方だとばかり思っていた上司に手のひらを返された。おまけに悪阻で身体の調子は最悪で、無性に心細い。
「珀人さん……」
思わず愛しい人の名を呟き、目を閉じる。こんなことになるなら、珀人さんから初めに忠告された時に仕事を辞めておけばよかったのだろうか。
今までの自分を否定するそんな考えまで浮かび、心が弱っているのを感じる。
なにもかも体の調子が悪いせいだと思いたいけれど、この悪阻自体、いつまで続くんだろう。
だいたい二十週前後に落ち着く人が多いと産院の先生は言ったけれど、それに自分が当てはまる確証はない。
最近目にした妊婦向けのネット記事には、出産直前まで続く人も稀にいると書いてあった。
妊娠はとてもおめでたいことだし、赤ちゃんのために心穏やかに過ごした方がいいとわかっているのに、今はどうしても不安の方が勝ってしまう――。